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3

「二見さん、ありがとう。にゃんこちゃん、預かってくれてありがとう。」
「どういたしまして」

にこにこと笑う紫音に二見も笑顔を返す。

「…しっかし、なあ。」

そのままカウンターに座り、子猫と楽しそうに戯れる紫音をまじまじと見る。
店に初めて来たときと、あまりに違いすぎる紫音に正直驚きを隠せない。確かに、あの時この子の内面は見た目通りではないと気づいてはいたが。これほどまでとは思わなかった。ちらりと横にいる晴海に視線を移し、その晴海の顔を見てまた内心驚く。

いつだって、へらへらとした笑いを浮かべていながらその実どこか乾いた目をしていた晴海が。克也はクールにみえて実はとても激情化でわかりやすい。感情がすべて面に出る。
だが、晴海は違った。晴海は社交的でありながら、全てのものに警戒して爪を立て、いつだって本音を悟られないように殻を作っていたのに。
それは慕ってくる自分に対しても同じで、二見は誰にも自分を出せない晴海が一番心配だった。

子猫の手を取りながら、にゃおー、にゃおーと鳴き真似をして遊ぶ紫音を見る。

「動物セラピーか」
「なんすか?」
「いやなんでもない」

二見は口から紫煙を吐き、くつくつと押し殺したように笑った。

「そういや紫音ちゃん、この子飼い主いんのか?」
「あ、えっと…ううん。お母さんにお願いしてるんだけど、まだ見つからなくって…」

二見の問いかけに、紫音がしゅんとする。元気になったこの子を、いつまでも二見に頼むわけにはいかない。かといって梨音がアレルギーのため部屋に連れ帰るわけにもいかない。中庭にまた置いておけば、またカラスに襲われるかも…

「じゃあさ、こいつ、俺が飼ってもいいか?」

悲しそうにうなだれた紫音の頭をぽん、と軽く叩き二見がにこりと笑いかける。

「え…?二見さんが、この子を…?」
「ああ。実はしばらく一緒にいる内に情がわいちまってな。そいつもだんだん俺に慣れてくれて今じゃ勝手に布団に入ってくるし後はついて回るし、かわいくてなあ。だから、よかったら俺にそいつ、飼わしてくんねえか。」

とたんに、紫音は花が咲いたように満面の笑みを浮かべこくこくと何度もうなづいた。

「ありがとう、二見さん!」
「おっと、ははっ、こっちこそ。」
「わ―――――!だめだめ!なに抱きついてんの!二見さんあんたも抱きしめ返してんじゃねえよ!」

喜びのあまり二見にがばりと抱きついた紫音を晴海が慌てて引きはがす。

「この子猫ちゃんは俺の!あんたの猫はこっち!」

紫音の抱く子猫を二見に押し付け、紫音を抱きしめながらふーふーと威嚇する晴海に笑いが止まらない。

「おーおー、かわいそうになあ、シオン。あのお兄ちゃんは乱暴ですねー。」
「は!?なにそれ!?」

二見が鼻先をくっつけながら子猫に呼びかけた名前に晴海が大声を出す。それを見て二見はしてやったり、とにやりと悪い笑みを浮かべた。

「なにって、こいつの名前だよ。シオン。かわいいだろ?『こんにちはー、僕、二見シオンでーす』」
「やめろちきしょー!」

子猫を晴海の方に向け、わざと自分の名字とくっつけて自己紹介させると晴海は顔を真っ赤にして必死になってあわて出す。当の紫音はどうだろうか、と二見は真っ赤になっているのを想像してちらりと見ると、紫音は予想とは違いきらきらと嬉しそうに目を輝かせていた。

「ありがとう、二見さん!わあ、俺とにゃんこちゃん、同じ名前なんだ!嬉しい!ね、晴海先輩!にゃんこちゃんと一緒だよ!」

シオン、シオンと嬉しそうに子猫を撫でる紫音にあからさまにショックを受けてがくりとうなだれる晴海を見て、二見は堪えきれないとばかりに声を出して笑う。

「…ほんっと、君にはまいるよ。…ありがとう、紫音ちゃん。」

晴海を、変えてくれてありがとう。

感謝と愛情をこめて、頬に軽くキスをすると紫音はきょとんとした顔で二見を見つめた。

「ぎゃー!あんたなにしてんだちきしょー!」
「なにって、キス」

怒りを露わにくってかかる晴海をからかってさらりと答える。
対してなんの動揺も表さない紫音を不思議に思い視線をやる。

…この子、晴海以外は嫌だとかないのかな?

「二見さん、俺、泣いてないよ?なんのおまじない?」
「…紫音ちゃああん!」
「ぶはっ!」

紫音にしがみつく晴海を、わけがわからないと言うようなきょとんとした表情で見つめる紫音に二見は再び噴き出した。

「こりゃあ大変だな。ご愁傷様だな、晴海。なあ紫音ちゃん。俺が泣いたらおまじないしてくれるか?」
「うん、いいよ!だって俺、二見さん好きだもん!」
「しおんちゃあああああああん!」

ダメだって前に言ったでしょー!と泣きながら紫音に詰め寄る晴海を見て二見は心から笑った。

「…飼い主が見つかってよかったな。二人とも。」

世の中に怯える子猫の紫音。世の中にどこか冷めていた野良猫の晴海。お互いが、お互いの唯一の飼い主でありますように。二見は目を細めて仲良くじゃれる二人を見つめた。

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