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2

一週間ほどたったある日のこと、いつもと同じように放課後皆がたむろする屋上へと向かった克也は扉を開けて誰もいないのに驚いた。

一体どうしたと言うのだろうか。この時間いつもなら自分のチームの奴らが何人かたむろして馬鹿笑いしているはずなんだが。

不思議に思いながら、いつものように煙草をくわえて定位置であるフェンスに寄りかかる。そういえば、晴海のやつも

『今日は紫音ちゃんとラブラブするから屋上にはいかないね〜』

などとふざけたことをメールしてきたっけ。
あれから一週間、晴海はこれでもかというほどに紫音を甘やかす。そんな晴海に嬉しそうに子猫のようにすり寄る紫音にもようやく少し慣れてきた。チームの奴らが紫音のかわいさにやられて隙あらば構おうとするから牽制するのが大変だとぼやいてたっけな。

嫉妬を露わに、それでも幸せそうに笑う大事な友人を思い出して自分にも笑みがこぼれる。


煙草に火をつけ、校庭の方へ体を向けフェンスに寄りかかりながら煙を空へと吐き出す。
紫音には、梨音の詳しい退院の日を聞いていない。意識が戻ったと聞いてからも、克也は花束をあいかわらず受付で名もなく渡すだけだった。

会いに行きたい。声が聞きたい。あの笑顔が見たい。
そうは思っていても、自分から梨音の傍へ行く勇気がまだない。紫音から

『梨音を頼む』

とは言われはしたが、本当にそういう意味でいいのだろうかと自信がないのだ。梨音があんな怪我をしてしまったのは、まぎれもない自分の責任。そんな自分が、のうのうと会いに行けるはずもない。

だから、克也は梨音が『待っていて』というのならいつまでも待とうと思ったのだ。そこで下される審判がどのようなものであっても、甘んじて受け入れようと。

6の期待と、4の諦め。

自嘲にも似た笑みを浮かべて、もう一度煙草を吸い、煙を吐き出す。

ガチャリ。

それと同時に、自分の後ろから屋上の扉を開ける音がした。ようやく誰かチームのメンバーがやってきたのだろうか。そう考えて体ごと扉の方へ振り返り、そこに現れた人物に目を見開く。


「先輩」


そこには、大きな鉢植えを抱えて微笑む梨音がいた。

「あ…」

久しぶりに見るその姿に、思わず口をぽかんと開けたままになってぽろりと咥えた煙草を落とす。慌てて拾い上げようと前屈みになりタバコに手を伸ばすと、同じように前から手が現れて先にタバコを拾い上げた。

顔を上げると、いつの間にそこまで来ていたのか可愛らしい笑顔を浮かべた梨音。

「先輩、いけないんだぁ。大人にならないとね、タバコ吸っちゃだめなんだよ?」

くすくすと笑いながらはい、と差し出され受け取ったその手で慌てて携帯灰皿で火を消し、ポケットにしまいこむ。

「…退院、したのか。」
「うん。今日の朝、退院できたの。それでね、僕、すぐに先輩に会いたくって急いで来ちゃった。」

えへへ、と笑う梨音に胸がぎゅっとなる。期待してもいいのだろうか。

「…先輩」

先ほどまで子供のような笑みを浮かべていた梨音が、その顔にまた笑みを浮かべる。
だがその顔は、今までの物とは違い溢れんばかりの慈愛に満ちていた。

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