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10

ある日、いつものように静人は放課後複数の男たちに暴行を受けていた。
蹴り上げられてごろりと仰向けに転がったその時、いつもとは違う雰囲気を感じた。

『なあ、男って締まるらしいぜ』

そう言って一人の男が静人にのしかかると、周りの男たちが静人を押さえ始めた。恐怖のあまり身動き一つ取れず、目線だけをさまよわせ助けを求めると、少し先の木陰に佇みこちらを見ている弟と目があった。

弟は、笑っていた。

あわや、というところで職員室に呼ばれていた基がいない静人を探しにきて、押さえつけている男たちを撃退し静人を助け出した。
ぼろぼろの静人を抱き抱え、自室に連れて行き風呂の用意をしてリビングに戻ると静人はテレビを凝視したまま立ちすくんでいた。

「…これは、なに」

基はしまった、と後悔した。自分が離れる少しの間、静人の気を紛らわせようとつけたテレビ。なんの番組かまでは確認していなかった。つけた時には動物が映っていたはずなのに。
ぽつりと吐き出された静人が指差す先には今流行の幼い子供たちにお届け物を頼む番組がやっていた。
道途中で犬に吠えられる兄弟。犬が苦手で泣いてしまった兄を、弟が必死に吠える犬から庇う姿が映し出されていた。

「…うそつき。これは、うそつきだ。弟が兄を庇うなんて、こんなのわざとやらされてるに決まってる。うそ、うそ、うそつき!うそつき!!
あはっ、あははは、あはははは!」

涙を流しながらテレビ画面を叩き狂ったように高笑いする静人を基はただ抱きしめるしかできなかった。

その次の日、静人を強姦しようとした男たちが全治3ヶ月の重傷を負って入院した。

あの日から、静人は変わった。表向きは大人しくいつものように地味な静人を演じ、弟のいないところで仮面をつける。

元々嫡男である静人は学問だけでなく武術も習わされていた。
多少の相手なら叩きのめすことができる。まるで昼間の鬱憤を晴らすかのように、今までの復讐をするかのように。まずは学園の不良たちを、そして自分を虐げていた学園の生徒を一人また一人と潰していった。

静人は名のごとく静かにその鍛えられた頭脳を開花させた。悪い方へ。

決して誰にも正体がばれないように人を潰す手段を見いだし、実行し、少しずつ自分の手駒を増やしていった。

全ては、弟をつぶさんがため。

静人が地域にいる不良のチームを潰していったのは、完全に自分の物になった街という大きな箱庭で弟を壊すため。あと一つ、地域最大のチームを潰し大きな地域を手に入れたら弟を連れ出し街を転々とさせ決して足が着かないように生きながらの地獄を見せてやろうと決めていた。

自分の自宅や学園に近い場所を選んだのはわざと。弟に、助けてもらえるはずの場所で決して助けてもらえないという絶望を与えるため。
基は壊れた静人にただ無言で従った。静人が壊れることを阻止できなかった自分を責め、ひたすら従順に静人の命に従った。

その最後の仕上げに、紫音たちと出会ったのだ。

静人は紫音と梨音が兄弟であることを知っていた。事前に調べていたからだ。そして、調べたとおりに己の身を顧みずただひたすらに兄である梨音を守る紫音に強烈に惹かれた。

どこまでやればくじけるのだろうか。どこまで守るのだろうか。

自分の弟には決してない、その梨音への絶対なる守護と愛。今まで見たことのない兄を思う弟の姿に、己の弟を重ねた。

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