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6

紫音は、病院からずっと駆けてきていた。今は丁度放課後で、晴海たちは屋上でたむろしているはずだ。早く、早く行かないと。晴海先輩に、言わないと。

胸が苦しい。涙が止まらない。それでも、拭う余裕なんて全然なくて。

校庭に入ると、下校中や部活中の生徒たちが自分を見て驚愕に目を見開いていた。それもそうだろう。あの、氷の君と言われる強面の紫音が涙をこぼしながら駆けているのだ。人々の視線を浴びながら、それでも紫音は校舎に向かって駆けて行く。屋上のフェンスごしに晴海の姿を見つけた時、紫音はその場に立ち止った。

乱れる息を必死に整え、屋上を見上げ晴海を見つめる。晴海もこちらを見ているようだ。しばし見つめあった後、紫音は屋上に向かって叫んだ。

「先輩…!」

泣きながら、口の横に手をやり屋上にいる晴海に向かって呼びかける。

「晴海先輩!先輩…っ、ひっく…っ、先輩…!」

泣きながら晴海の名を呼ぶ紫音に、屋上にいるチームの皆が晴海と紫音を交互に見る。
克也も一体何事かと目を見開いたまままばたきすら忘れているかのようだ。

当の晴海は、そんな周りなど意にも介さず下にいる紫音を必死に見ている。

紫音ちゃんが、泣いてる。俺を呼んで泣いている。早く、早く行ってあげないと。

フェンスにしがみつき紫音を見ていた晴海が紫音の元へ駆け出そうと踵を返した次の瞬間、

「せんぱいが、好きです…!おれっ、俺…も、晴海先輩が、すき…!!」

校庭から空高く響いた告白に、その場にいた全ての人間が一斉に晴海と紫音を見た。


「せん、ぱ…っ、げほっ、げほっ…!う…っ、ひっく…!」

屋上に向かって叫んだ紫音はそのままその場にがくりと膝をついて倒れ込んでしまった。
泣きながらずっと走っていたために体力の消耗と酸欠にくらくらとめまいがする。

晴海は、どう思っただろうか。あんなひどいことを言った自分に、今更そんなことを言われてもと嫌悪しないだろうか。

「せんぱい…、好き…、好きだよぅ…っ、げほっ、、…っ、ひっく…っ、好き…」

四つん這いの姿勢のまま、ぼたぼたと零れ落ちる雫がシミを作る地面に向かって何度も何度も告白を繰り返す。

「…紫音ちゃん」

ふと地面に影がさし、自分の名を呼ぶ聞き覚えのある声がして紫音はかすむ目をそのままの姿勢で大きく見開いた。

ゆっくりと、下を向いていた顔を上げる。

「紫音ちゃん」

そこには、優しく微笑み自分に向って手を伸ばす晴海がいた。

「…晴海…、先輩…」
「うん」

呆然と四つん這いのまま晴海を見上げる紫音に優しく頷くと、ひざを折って紫音の目線に高さを合わせそっと地面についた手を取る。砂だらけのその手を優しく払い、ぎゅ、と握りしめて晴海は紫音のその手を自分の頬につけた。

「紫音ちゃん」
「…っ、せんぱ…、はる、はるみ、せんぱ…」

自分の手から伝わる晴海の頬の温もりに、紫音はまたくしゃりと顔を歪め涙をこぼす。晴海はそんな紫音を微笑みながらただじっと見つめていた。ぼろぼろとぐしゃぐしゃの顔で泣きじゃくる、目の前のこの子が愛しくて。

「先輩…、ごめんなさい。ひどいことっ、いっぱ…、いっぱい、言って、ごめ、なさ…っ!ふ…、うっく…!おっ、俺っ、あんなこと言ったけど…っ、ひっく、っ、先輩が、先輩が…」


「すきだよ」


自分で頬に当てたその手を口元に持っていき、ちゅ、と優しくキスをする。晴海の行動と言葉に泣きじゃくっていた紫音がぴたりと動きを止め、晴海を見つめた。

「…言ったでしょ?俺、紫音ちゃんが好きだよ。お友達としてなんかじゃないよ。何言われたって、なにされたって、どんなことがあったって変わらない。俺は、紫音ちゃんが…、
紫音。君が、大好きです。」

まるで王子様が姫君にするように、膝をついて紫音の手の甲にキスをする。晴海が笑顔で顔を上げた瞬間

「先輩…!」
「うわ!」

紫音が、晴海に思い切り抱きついた。

「先輩、先輩先輩…!俺もっ…、俺も、大好き…!晴海先輩、大好きぃ…!」

首に両腕をしっかりと回し、わあわあと大泣きする紫音を晴海もぎゅうと抱きしめ返す。

やっと。やっと、手に入れた。


そこが校庭で、周りには他の生徒たちがたくさんいるとか。屋上からは自分のチームの仲間と克也が見ていることさえも忘れて、二人は抱きしめあっていた。

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