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5

晴海は携帯をじっと眺めて、フェンスに寄りかかりぼんやりとしていた。

あの、スネイルとの乱闘から一週間。いや、もう二週間近くになる。紫音の激しい拒絶と梨音の身に起こった出来事に二人とも心身ともにずたずたになりながら毎日を過ごしている。それでも学校へ来ることをやめなかったのは、お互い言葉にはしないもののあの4人で過ごした昼休みを思い出しているからだ。
女々しいと言われようが何と言われようが、会うことを許されない今、思い出の中で二人はそれぞれ傷を癒す。

克也は、梨音が入院してから毎日ずっと花を贈っている。ガーベラ、チューリップ、バラ、ラナンキュラスなどなど、とにかく愛を告げる花言葉を持つ花を片っ端から。
会って言うことができないのなら。せめて、想いだけでも。

克也が受付で花束を渡すのに晴海も毎日ついて行った。そして、克也の目を盗み、自分もカバンの中に忍ばせていた花を取り出して受け付けに渡す。

ふと見つけたハルジオン。

晴海と、紫音。

もう二度と重ならないその二人を、せめて花でだけでも重ねたくて。たくさんある花束の中に紛れて、どうかばれませんようにとそっと想いを込めて渡していた。

スネイルを事実上解散させた二人のあまりにも憔悴しきった様子に、初めは近寄ることを遠慮していたチームのメンバーが一人、二人とまた屋上に集まりだした。二人を元気づけようと楽しくはしゃぐメンバーに、二人もどれだけ救われたのかわからない。
それでも、やはり二人の心はぽっかりと大きな穴が開いてしまっているようで。時折、こうしてぼんやりと空を眺めたりすることが多くあった。

晴海は、携帯に打ち出されている未送信のメールをじっと見ていた。

『すきだよ』

たった4文字。あて先は、紫音。いつか、いつか送ろうとそのままにしてあったそれを開いては閉じ、開いては閉じ。もう二度と伝えることのできなくなった想いを、何度も何度も繰り返し読んでいる。

「はあ…」
「なーにしけたツラしてんすか、晴海さん!」
「うわ!」

携帯の画面を見ていた晴海の顔を、突然下っ端の一人が覗き込んできて驚いて飛び上る。

「あ―――――――!!!!」

そして、携帯を閉じようとしてふと画面を見てさらに驚いて大声を出した。

『送信しました』

どうやら、驚いた瞬間間違って送信ボタンを押してしまっていたらしい。

「なにすんだてめええええええ!!!」
「わああああ!晴海さんこそ何すんすかああああ!!!」

先ほど覗き込んできた下っ端の首を締め上げ、がくがくと揺さぶる。

送信しましたって。送っちゃったじゃん!なにしてんの、どーすんの俺!

晴海はあまりの出来事に下っ端を離すと、がくりとその場に膝をついた。

「なんだよ、どうしたんだ?」
「…なんもない…もういいよ。いいんだ…」

克也からの問いかけに泣きそうになりながら答える。
どうしよう。紫音ちゃんに、送っちゃった。
無視されるだけならまだいい。それのせいで、再びあんなことを言われたとしたら。でも、送れたと言うことは着信拒否はされていないと言うことでその事実に少しうれしくなる。あ、でも紫音ちゃんの事だから忘れてるだけかもしれないし。

送信してからしばらく経ち、いまだそのショックから立ち直れず項垂れている晴海の耳に何やら校庭の方からざわめきが聞こえてきた。

「なんだあれ?」
「校庭にいるやつら、スゲエ驚いた顔してんぜ。」
「うわ、あれじゃねえ?ほら、木村紫音じゃん。えっ!?あいつ、泣いてんじゃねえ!?」
「まじだ!泣きながら走ってるって、そりゃ皆驚くだろ!」

ざわめきにフェンスから校庭を覗き込んでいた下っ端たちの会話に、晴海ががばりと顔を上げ転げるようにしてフェンスにしがみつき校庭を見る。

そこには、涙を流しながら校舎に向かって走ってきている紫音が見えた。

「紫音ちゃん…!」

一体どうしたと言うのだろうか。絶対に人前で涙など見せないあの子が、周りを気にせず泣きながら走ってくるだなんて。まさか、梨音の身に何か。
同じく校庭を見ていた克也も、顔を真っ青にして晴海と顔を見合わせる。

その時、駆けてきていた紫音が校舎の近くに来ると膝に手を付き立ち止まった。

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