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4

「…」

梨音じゃない、誰か。
そう言われて一瞬頭に浮かんだ影を必死に頭を振って消そうとする。

「そ、そんなこと、ないもん!俺、俺は、りーちゃんが一番で…」
「紫音」

必死に否定する紫音を、まるで幼い子供を慰めるかのように優しく微笑み撫でながら梨音は緩く首を振る。

「いいんだよ、紫音。もう、嘘はつかなくていいの。自分の気持ちを、なかったことにしようとしないで。紫音。優しくて、強くて、ほんとは泣き虫な僕の大事な子。もう、いいんだよ。僕は、守られるだけのお兄ちゃんなんかになりたくない。
本当の紫音に、戻っていいんだよ。
今度は僕が守ってあげる。ほら、」

す、と梨音が花瓶に活けられた花束を差す。

「あの、ハルジオンの花をくれた人のように。」

そこには、色とりどりの花々とは別に活けられたハルジオン。

梨音が入院してから、毎日欠かさず梨音宛てに花束が届けられている。送り主はいつも書いてはいない。受け付けに聞いても、容姿すら教えてもらえなかった。

その花束と一緒に送られてきた、ハルジオンの花。野原で摘んできたであろうそれは、いつもそのままの姿で不器用にまとめられていた。

「あれは、僕宛てじゃないよね。紫音。花の名前を考えればわかるよ。ね、紫音。」

ぼろぼろと、紫音の目から涙が後から後から溢れ出す。あの花を初めて受け取った時、紫音はそれが誰からの物かすぐに分かった。あんなことを言ったのに。あんなにひどい言葉で傷つけたのに。その花を見るたび、胸が苦しくて、切なくて。でも、捨てることなんてできなくて。自分の部屋に飾ることもできなくて。

「紫音、ハルジオンの花言葉、知ってる?」

梨音の問いかけに、涙を必死に拭いながら首を振る。

「『さりげない愛』っていうんだよ。」

その時、ちょうど紫音の携帯が一通のメールの着信を知らせた。
差出人を確認せずに開けて、紫音は言葉を失う。

『すきだよ』

それは、晴海からのメール。

ずっと前。梨音の写メが欲しいと言われて携帯を渡した時、お互いの連絡先を交換していた。一度も使われることのなかったそれが、今。

「…行っておいで、紫音。素直になって。それでね、克也先輩に会ったら、伝えてくれないかなあ。『会いに行きます』って。」

携帯を見つめながら涙を流す紫音を、梨音は優しく抱きしめる。紫音は何度も何度も無言で頷き、やがて梨音に背中を押されるように病室を飛び出した。

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