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13

紫音は、突如始まった二人の戦いを唖然として見つめていた。

『俺のもんだ』

晴海は、確かにそう言った。その言葉を聞いた瞬間、目の前が眩しい光に包まれたようだった。

先輩。先輩。
俺も…、俺だって。

「カジ!」

紫音が自分の中に生まれた気持ちを最後まで確認する前に、キツネ面の男が誰かを呼ぶ声にはっと現実に意識が引き戻された。
カジと呼ばれて工場から駆けだしてきた男は、はじめに自分を蹴った男を引きずっていった猿の面を付けた男だ。続いて仮面をつけた男たちが幾人か同じように駆けてきたかと思うと、猿の面以外の男たちは一斉に克也に襲いかかる。

だが克也は、複数の幹部相手に引けを取らない。

「こ、こいつ、強え!」

襲いかかった男が逆に怯んで一歩下がる。
克也は背中に梨音を庇いながらも敵を倒していく。

「誰を相手にしていると思ってる!redの総長をなめるなよ!」

幹部とはいえ、redの総長である克也とでは元々の戦闘能力の差は歴然だった。だが、総長であるはずのキツネ面の男は幹部が次々と倒されているにもかかわらずそちらを気にする事も無い。目の前の晴海にだけ自分の意識を向けたままだった。

カジと呼ばれた男が、無言で晴海の前で構えを取る。他の幹部とは違い、この男はかなり強い。晴海は目の前で構える男を見て早々勝たせてはくれなさそうだ、と一つ息を吐き同じく迎撃の構えを取った。

「…いくよ、秋田晴海いいいいい!」

キツネ面の男が叫び一歩踏み込むと同時に、カジと言う男も晴海に攻撃を開始する。二対一。それでも、一歩も譲るわけにはいかない。自分の後ろには、紫音がいるのだ。
右、左、上下と次々に繰り出される攻撃を紙一重で躱す。
避けながら、視界の端に移るのは顔を青くしている紫音。晴海は先ほど掴んだ紫音の手を思い出す。
殴りすぎて、擦り傷を負って血を流し腫らしていたその拳。もう二度と、血に染めさせてなるものか。

「…っおおおおおおお!」

晴海は二人相手に一歩も下がらなかった。

先輩が。先輩が、やられちゃう!

自分を守ろうと二人相手に戦う晴海を見て、紫音はぎり、と歯を食いしばり駆け出した。

「ぐ…!」

同時に攻撃を仕掛けられ、避けきれずカジと言う男からの蹴りを腹に食らい一瞬前屈みになる。

「はっはは、がら空き!」
「…!」

その瞬間を逃さず、キツネ面の男が晴海の頭上から拳を振り下ろそうと振りかぶったその時、

「させるか!」
「ぐはぁっ!」

駆けてきた紫音がキツネ面の男の顔面に飛び蹴りを食らわせた。
バキン!という激しい破壊音を響かせキツネ面の男が吹っ飛ぶ。

「紫音ちゃん!なんで…」
「…まっぴらごめんだ。」

驚愕の顔で紫音を見つめる晴海に、ちらりと一度視線を投げ、一言そう言ったかと思うと無言で晴海の隣で構えを取る紫音に、晴海の胸が熱くたぎる。
泣き虫で、優しくて、怖がりで、本当は人を傷つけたりすることなんて大嫌いなこの子が。自分のために隣に立つ。

大事な人の傷つくところをみたくない。守りたいと思うのは、誰だって同じ。

紫音ちゃん。俺、うぬぼれてもいいのかなあ?

敵に向かって構える紫音の隣で、晴海も構えを取る。それでも、気付かれない様に少し紫音より前に。

かっこつけさせてよ。

自分の前に立つ二人に、カジと言う男が少し怯む。だが、ぐっと体に力を入れたかと思うと決意したかのように晴海に向かって攻撃を仕掛けてきた。その拳を、晴海が紫音に届かせまいと受け止める。カジと、晴海の戦いが再び始まったその後方に、紫音に飛ばされたキツネ面の男がゆらりと立ち上がり、ゆらりゆらりと揺れながらこちらに向かって歩いて来るのが見えた。紫音の警戒心が一気に高まる。

「…し〜おんちゃん…」

紫音の蹴りで半分かけたその面の下から、狂気に濡れた目が紫音を捕える。紫音はずきり、と胸が痛んだ。

…なんて。なんて、悲しい目なんだろうか。

紫音は、その目の中に狂気の奥深く潜む深い悲しみを見た。その目に捕われ、警戒を少し緩めてしまったその刹那。

「きゃっはははははは!」

一気にこちらに駆けだしてくるその男の手には、先ほど梨音に当てられていたナイフが握られていた。

「!紫音ちゃん!」

ドス、という肉に刃物の突き刺さるリアルな音。

紫音の目の前には

ずるり、と、紫音の体の前からずり落ちる梨音がいた。

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