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「なんだよ、お前…。なんで泣かないの。なんで叫ばないの。あいつ、動かないじゃん!必死になんないじゃん!なあなあなあ!」
梨音を掴むキツネ面の男が、がくがくと梨音を揺さぶる。
「…うっとおしい。ウザい、ウザイウザイウザイ!面白くない!面白くないよ!
…いいよ。そんならさ、嫌でも泣き叫ぶようにしてやるよ。おい、お前ら。こいつ、もうひん剥いて犯っちゃいな。」
キツネ面の男はそういうと、梨音を乱暴に近くの男に投げやった。梨音を受け止めた男が、べろりと舌なめずりをしてにやにやと笑う。
「へへっ、じゃあ遠慮なくいただいちゃおっかなー。」
男が、梨音を床に押し倒してまたがり、自分のベルトに手をかける。カチャカチャと言う音を耳にしながら、梨音は静かに目を閉じた。
その瞼の裏に浮かぶのは、自分に微笑む克也の姿。
そういえば、だいぶ前に『犯されても簡単に許すのか』って怒られたっけ。あの時は、『犯される』ってなんのことかわからなくて聞いたら、変な顔をした。なぜあんなに怒ったのか、今ならわかる。これからされることがそうなら、克也先輩。
どうせなら、あなたがよかった。
つう、と一筋、頬を涙が流れる。
紫音は覚悟を決めたかのように目を閉じる梨音を見て目の前が赤く染まるのが分かった。
「梨音、梨音…!!」
梨音。梨音。誰よりも優しい、かわいい、俺の大事なお兄ちゃん。人一倍傷つきやすくて、泣き虫な君を守らなきゃいけないのに。俺が助けられないせいで、また怖い目に合わせてしまった。もう二度と傷つけないと誓ったのに。もう二度と怖い思い何てさせないと誓ったのに。君に降りかかるすべての災いを、俺が引き受けようと誓っていたのに。
俺が弱いから。俺が、手を伸ばせないから君は俺のために微笑んで傷つくことを決めてしまった。
ごめんなさい。ごめんなさい、梨音。お願い、お願いだから。そんな笑顔を俺に見せないで。いつだって、君には本当の笑顔でいてほしいんだ。
梨音に馬乗りになった男がズボンのファスナーを下げ始め、同時に紫音が一直線に駆け出す。
「やめろおおおおおおおおお!!」
まっすぐに梨音を見て、手を伸ばした瞬間。
『…克也、先輩…』
梨音の口が、声を出さずに確かにそう動いた。
「総長!大変です!」
今まさに、と言うその時。下っ端の一人が顔を真っ青にしながら部屋に飛び込んできた。部屋にいた全ての人間が、何事かと入って来た男に顔を向ける。
「redのやつらが…!redのやつらが、乗り込んできました!」
下っ端が叫ぶと同時に、部屋の外で叫び声や怒号が響き渡る。それを聞いてスネイルのメンバーは一気に顔を青ざめさせざわざわと騒ぎ始めた。
「うっわああ、お手紙書く前にアジトがばれて乗り込まれたのって初めてじゃね?向こう、よっぽど切れるやつがいるんだねえ。」
キツネ面の男がひどく感心したようにそう言うと周りの男たちはそれぞれ顔を見合わせて動揺していた。
「そ、総長!どうしますか!」
「redって、この地域じゃ最大のチームなんだろ!?おれたちじゃ太刀打ちできるわけが…」
スネイルの喧嘩は元々人質を取って相手が抵抗できなくしてからの喧嘩だ。つまり、奇襲を受けた事も無ければ正々堂々ぶつかり合った事も無い。総長や幹部はいざ知らず、下っ端たちは今回のように一人に対して数人でとかそんな卑怯な真似でしか喧嘩をしたことがないため自分よりも格上の相手とまともにやりあったことがないのだ。
「スネイル!redが相手だ!てめえら全員五体満足でいられると思うな!!」
少し離れたところから、克也の声が響く。同時に大きな歓声のような声が聞こえ、激しい乱闘が始まったであろう音がした。
「ああ〜、しょうがないなあ〜。ま、ちょっと予定が狂っちゃったけどこっちに人質がいるのは変わりないしい。こいつを盾にすればあいつらも抵抗を…」
「梨音っ!両足を思い切り上に蹴り上げろっ!!」
キツネ面の男をはじめ、梨音にまたがる男がredの奇襲に気を取られ部屋の入り口に目を移した一瞬の隙を狙って、紫音は梨音に指示を出した。それを聞いた梨音が、言われた通りに思い切り両足をまたがる男に向かって蹴り上げる。
「エイッ!」
「ぎゃあああ!」
少し腰を浮かして膝立ちになっていたために梨音の両足は上に乗っていた男の股間を思い切り蹴り上げる形になった。突然の激痛に梨音の上にいた男は股間を押さえて蹲る。そのすきに梨音は男の下から這い出し、立ち上がって紫音に向かって駆けだした。同じくして、呆然と部屋の入り口に気を取られたスネイルのメンバーの隙をついて紫音は梨音に向かって駆けだしていた。
「くそっ!」
キツネ面の男が手を伸ばし梨音を掴もうとするよりも一瞬早く紫音が梨音の手を引き、自分の元へぐいと引き寄せる。そして、駆けていたその勢いのまま思い切りキツネ面の男に側面蹴りを食らわせた。
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