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10

「あっははは!見ろよ、すごいねお前のナイト君!あんだけの人数に一歩も引かない!」

キツネ面の男はけらけらと笑うと、制服のボタンを全て外された梨音の肩を掴んで引き起こし、紫音の方へと向けた。

「ほら、見ろよ。お前のために必死になってるあの子をさ。健気で、従順で。…いいなあ…、お前…。」

面の奥の目が、眩しい物でも見るかのように細められる。
血まみれになりながらも、自分を救うためにただひたすらに目の前の敵を倒している紫音。その姿を見て、梨音はその両目からさらに涙をこぼす。

キツネ面の男が掴んだ梨音の両肩に力を込めた。

「…いい声で鳴けよ。あの子が、もっと必死になるように。」

そう言うと同時に、ばりっという音を立てて梨音の制服を左右に引き裂き、上半身を露わにさせた。

「梨音…っ、…!?」
「おっとおお!つーかまえたあ!」

目の前で服を引き裂かれた梨音に向かって手を伸ばすと、目の前にいた男にその手をとられ、腹に膝蹴りをされる。

「ぐ…っ!」
「ひゃっははは!おらあ!くらえ、クソが!」

紫音の手を取った男はまるで仕留めたと言わんばかりに手を掴んだまま、何度も何度も膝蹴りを繰り出す。
紫音は捕まれているのとは逆の手で幾度めかの膝蹴りを掴んだ。

「な…!?」
「邪魔を…、するなああ!!」

そしてそのまま片手で男を持ち上げ、ぐんと思い切り横に振り回し周りにいた敵をなぎ倒す。

「りお…、」

自分の目の前が一瞬空いた瞬間を狙って駆け出そうとして、紫音は一瞬動きを止めてしまった。

梨音は、上半身を剥かれたにも関わらず自分を見て微笑んでいた。

「あっれえ?どしたの、泣いてあの子呼ばないの?助けてーって叫べば?ほら!」

そんな梨音の様子に気づいたキツネ面の男がいらいらしたようにそういうと、梨音の胸の粒をぎり、と捻った。

「…!」

だが、それでも梨音は唇を噛み締め声を出さない。

梨音は、自分を見て驚愕に目を見開く紫音にまるで大丈夫だとでも言うように、ただ微笑んでいた。

紫音。紫音。誰よりも強くて、カッコ良くて。
人一倍傷つきやすくて、優しくて、泣き虫な僕の大事な弟。

人を殴ったり、蹴ったり、誰かを傷つけることが誰よりも嫌いな君なのに。
僕が、弱いから。僕がすぐに君の名を呼ぶから。君はいつだって、自分を殺していた。
ごめんね、紫音。僕のせいで。君のかわいいものが大好きなその優しい手を、血に染めてしまって。甘いものが誰よりも好きなかわいい笑顔を怒りで歪ませてしまって。

僕が泣くから、君は血を流す。僕が呼ぶから、君は嫌いな暴力を振るう。1人で戦うことも逃げることもできない僕は、せめて君が僕のためにこれ以上必死にならないように。
傷つきながら僕を助けようと前に進まないように。

君を呼ばない。泣かない。
そんなことしかできない、僕を許して。

梨音は、微笑みながら、紫音に向かってゆっくりと首を左右に振った。

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