×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




8

男がゆっくりと紫音に近づき、すいと顎をすくう。

「どしたの、お顔。もしかして俺が来る前に誰かに殴られちゃった?」
「…」

先ほど蹴られ、赤く擦り傷になった頬を見て、こてん、と首を傾げる。仕草こそかわいらしいものの、明らかに怒っているようなオーラを纏いそれに気づいた周りの下っ端が震える声で『すみません、』と謝った。

「お、俺、そいつに遊園地で蹴られて…」
「カジ」

紫音に手を出した下っ端が言い訳をし出した途中に、キツネ面の男は誰かの名を呼ぶと後ろから背の高い猿の面をつけた男が現れその下っ端の首根っこをひっつかんだ。

「すみません、総長すみません!」
「人質は傷一つつけちゃだめって言ってるでしょ〜?傷つけると相手が逆上する可能性があるんだからさぁ、キレイキレイなままでお取引って何回いったらわかるのぉ?カジ、そいつお仕置きね」

真っ青になって必死に謝罪する下っ端を引きずり、サルの面の男が部屋を去るとキツネ面の男はくすくすと笑いながらゆっくりと紫音の頭を撫でた。

「ごめんねえ、痛かったねー。ほんと、大事な商品に傷つけるだなんて許せない。」

自分の事を『商品』と言い切る男にぞっとする。この男は、今までに会ってきた不良とは違う。きっと、取引に使えなかった場合自分たちを壊すことになんの躊躇もしないだろう。
こいつに、梨音を渡すわけにはいかない。なんとか、なんとか自分だけに注意を引きつけないと。

だが、紫音の思いをまるで読んだかのごとくキツネ面の男はその表情の見えない顔を紫音の後ろでいまだ気を失い横たわる梨音に向けた。

「そっちが、redの総長のお気に入りだっけ?」
「っ、やめろ!」

梨音に手を伸ばそうとしたキツネ面の男から梨音をかばい、紫音はぎり、と男を睨んだ。

「…へえ」
「う…ん」

紫音の行動に一瞬動きを止めたかと思うと、至極楽しそうにその男が声を出したと同時に梨音が目を覚ましてしまった。

「しー、ちゃ…?」
「あっは、お姫様がお目覚めだあ。ご気分どう?」

紫音の後ろを覗き込み、楽しそうに問いかけるキツネ面の男。梨音は自分を見る奇妙な面に一瞬にして目を覚まし怯えて息をのんだ。

「ひ、…、だ、だれ…!?」
「初めまして、お姫様。スネイルのアジトへようこそ〜。今からねえ、君を大事にしている王子様にお手紙を書いて迎えに来てもらおうかと思ってたんだけど〜。」

そこまで言うと、キツネ面の男はちらりと紫音を見て、ぱちんと指を鳴らしたかと思うとすい、と指先で何やら指示を出す。そして、その指先が梨音に向いたかと思うと入り口から部屋にいた人数の更に倍ほどの人数が現れ、梨音を紫音に向かって手を伸ばしてきた。

「ひいっ!」
「!やめろっ!梨音に近づくな!」

自分たちに近づく男たちを、紫音は勢いよく立ち上がりその唯一自由な脚で片っ端から倒していく。その様子を見ていたキツネ面の男は仮面の向こうで目を狂気に輝かせていた。
ぱちん、とさらにもう一度指を鳴らしたかと思うと今度は幾人か同じように動物の仮面をつけた男が現れ、紫音に近づく。

「そいつ、格が違うからさ。幹部たち同時にかかりな」

キツネ面の男が命令すると、面を付けた男たちは4人一度に紫音に襲い掛かり、四方からがしりと紫音を押さえこむとそのまま床に押し付けた。その間に、下っ端たちが梨音を引き起こし紫音から離して部屋の入り口近くへと連れて行く。

「いやあ、やだあ!しーちゃん、しーちゃんっ!」
「梨音!くそっ、離せ!離せええ!」

4人の男に押さえつけられ、身動きを取れないままに紫音は必死にもがく。キツネ面の男は紫音の傍を離れ、梨音の元へと向かったかと思うとカタカタと震え怯えて涙を流す梨音の顎をくいと持ち上げてじっと見た。

「やめろっ、梨音に触るな!!」

紫音が叫ぶと、男はちらりと紫音を見てまた梨音へと顔を戻す。

「…お前、かわいいねえ。きっとすごくすごーく、大事にしてもらってたんだろうねえ。あの子はお前のナイトなんだろうね。君を守ろうと必死だったもの。…それを、当たり前のように受け取ってきたんでしょ?危ないこと、怖い事はぜえんぶあの子に任せちゃって、自分は安全なところでぬくぬくかわいがられてきたんでしょ?」
「…っ!」

キツネ面の男に言われ、梨音は眉を情けなく下げる。そんな梨音の様子を見た男はくつくつとのどで笑うと梨音の顎を掴んでいる手にぎり、と力を込めた。

「いつだって、怖いよーってそんな顔したらあの子が助けてくれたんでしょ?そんで、傷だらけになるあの子を横で泣きながら見てるだけ。きれいなきれいな花みたいに、ガラスケースの中からそれを眺めてんだよね?」
「い…っ、」
「俺さぁ、君みたいな悲劇のヒロインぶるやつ、だぁいっキライなんだよねえ…」

ぎりぎりと顎を掴まれ、痛みに涙を浮かべ眉を寄せる。

「梨、音、に…っ、さわ、る…、なぁ…っ!!」

それを見た紫音が、渾身の力を込めて立ち上がろうとし、まだ押さえつけられた体のまま一歩、前へと進む。紫音を押さえつけている幹部たちは皆互いに顔を見合わせ、さらに押さえつけようとするも紫音は4人を引きずりながら確実に足を進めていた。

「あっははは!すっげえ、重戦車みたい!でもさあー」

キツネ面の男は、けらけらと大笑いしたかと思うとポケットからナイフを取り出し梨音の顔に当てた。

「…!」
「それ以上進むと、傷つけちゃうよ。」

[ 248/283 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
トップへ戻る