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確信を持ってそう言う克也に、晴海は無言で頷いた。
「…っ、くそ…!」
今更ながらに、浅はかな自分の行為に後悔が押し寄せる。あの日、奴らに二人でいるところを見つかったりしなければ。
自分と二人でいるには余りにもタイプの違いすぎる梨音は、確実に俺の弱点だと認識されてしまっただろう。
「だけど、おかげで奴らが構えるであろうアジトを特定することができた」
晴海の言葉に、克也が顔をあげる。晴海は、ペンを持ち地図のとある場所に印を付けた。
「俺たちが全寮制に通っていることは承知しているはず。つまり、学校を見張ることができて人目につきにくく、さらに何かあったときにはすぐに逃げ出し行方をくらませることのできる路地などの多い場所。ここだ」
そう言って、晴海はとある廃工場を指した。
場所は特定できた。後は、奴らが確実にそこに集まるであろう日をチーム総出で奴らに決してバレないように探らなければならない。奴らとの頭脳戦だ。
そして、平行して絶対にしなければならないこと。それは、梨音の身の安全の確保だ。
「幸い、ここは全寮制だしあの紫音ちゃんがいる限りまず梨音ちゃんが1人で外出することなんてない。その点では他の奴らに比べると、遥かに安全だとは言える。…だけど、百パーセントじゃない。紫音ちゃんと二人で出かけたとしても、こないだの一件で恐らく紫音ちゃんはやつらの要注意リストには入ったはずだ。」
「…つまり、チームの奴らに、梨音たちを見張らせないといけないわけか…」
スネイルを攻撃すると決め、さらに向こうから狙われている今自分たちが梨音の傍にいることはできない。傍にいて守ろうと思えば、たまり場に連れて行かなければならない。となると、学校にいる方がはるかに安全ではあるだろう。その点は向こうに集中できるからありがたいとは言えるかもしれない。
だが、傍にいられないと言うことは梨音の動向を自分たちでは見張ることができないということだ。先ほど晴海が言った通り、百パーセントじゃない。紫音がいるとはいえ、知らぬ間に外に出られてはなすすべがないのだ。
つまり、梨音と紫音の動きを誰かに常に報告してもらわなければならない。それを、チームの人間に頼まなければならない。
克也が梨音を狙っていることは皆が知っている。初めに、皆の前で梨音を呼び出し付き合えと脅していたのだから。
だが、狙われるのは主にトップの人間の弱点だとはいえ、下っ端たちにも大事な人たちがいる。
『スネイルを潰す』と宣言したトップが、自分たちの大事な人だけをチームの皆に守らせるわけにはいかない。下っ端だから狙われることはないという保証などないのだ。
ただでさえ、昼休みに梨音と紫音の二人と過ごしたいからと理由を告げずにチームの皆には屋上への出入りをやめてもらっている。克也と晴海は、自分たちを慕って集まってくれている仲間にこれ以上自分たちの我が儘を押し付けるわけにはいかないと悩んでいた。
…頼めば、絶対にしてくれるのはわかっている。だからといって、あいつらにそれをさせるのは…
ピリリリ
二人が無言で俯いた時、部屋に克也の携帯の着信音が鳴り響いた。
「どうした?」
『総長、木村兄弟は今日から一週間、放課後に東校舎裏の花壇の掃除を風邪ひいた友達の代わりにするみたいです』
掛けてきたのは下っ端で、話された内容に克也は思わず晴海と顔を見合わせた。
『総長、水くさいっすよ。俺らどんだけお二人見てきたと思ってんすか。俺ら、お二人のためならなんだってするっすよ。お二人が俺らの事考えて頼みたいこと躊躇してんの、皆知ってるっす。』
「…」
『総長が休み明けにスネイルとの抗争の話をしたときから様子がおかしいの、気付いてました。その理由が木村梨音のことじゃないかってのも。田中から、弟の紫音があからさまに態度おかしいって聞いてたんで。だから、皆で勝手に決めてたんすよ。総長の大事な人を、皆で交代で見張ろうって。ここ二日ほどは特に目立った動きがなかったんで報告しませんでしたが、今日からは校内とはいえ放課後遅くなるんで報告しました。
…どうせ総長たちの事だから、俺たちに自分の大事な人を守れって言えなかったんでしょ?
そんな総長たちだからこそ、俺らはついて行こうって決めてんすよ。遠慮しねえでください。俺らは喜んであんたらの手足になります。』
チームの下っ端からの電話を切った後、克也は携帯を自分の額に当てて蹲った。
いい、仲間を持った。こんなにも、自分勝手なトップのために自ら動いてくれる、素晴らしい仲間だ。
「…やるぞ、晴海。必ずぶっ潰してやる。誰一人として奴らに傷つけさせねえ。」
二人のチームが奴らがアジトを立て全てのメンバーを集める集会を開く情報を手に入れることができたのはそれから三日後のことだった。
崩壊まで、あと二日。
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[mokuji]
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