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「すまない」
二見が現れて二人に頭を下げたのは、紫音と梨音が病室から去り晴海と克也がスネイルを潰すと決意した直後の事だった。晴海が連絡をして、来てもらったのだ。突然の二見の謝罪に、二人とも目を見開いて驚き慌てて膝をつく二見を起き上がらせる。
「やめてくださいよ、二見さん!」
「そうですよ、なんであんたが俺たちに謝るんですか」
「…スネイルの情報を掴んでおきながら、中途半端な助言しかしなかった。二つ離れた町の事だからと甘く見ていた俺の落ち度だ。現役を退いたとはいえお前らに情報を渡すなら、もっときちんとした情報を掴んでおくべきだった。」
再び、頭を下げる二見に克也と晴海が首を振る。
「…二見さんのせいじゃないっす。俺らが、甘かった。二見さんから話を聞いていた時点で早めに対策を練っていれば避けられた事態です」
ベッドの上と、その脇で今度は克也と晴海が頭を下げる。それに二見は二人の肩に手を置いてぐっと掴んだ。晴海に促され、出された椅子に腰かけながら二見は二人から今日の出来事についての詳細を話された。
晴海が二見を呼んだのは、スネイルを潰すため。その為には、二見の情報網をまず利用させてもらわなければならない。現役を退いたこの人に迷惑をかけたくはないが、自分たちの情報屋ではつかめない情報をこの人なら誰よりも早く掴むことができるのだ。
頭を下げて頼み込む二人に、二見は黙って頷いた。
二日ほど経ち、二見から仕入れることのできた新たな情報は三つ。一つ目は、奴らは二つ向こうの町を制覇したこと。二つ向こうにあった町のチームは、全て吸収ではなく解散に追い込まれていた。全てのチームの総長以下幹部たちは恋人や知人や家族を人質に取られ、二度とどこのチームにも属さないと約束させられていた。
二つ目、やつらは決まったアジトを持たず、いつも数日でアジトを変えるため追いかけることが非常に困難であると言うこと。
そして、三つ目。これが一番重要だった。やつらは遊園地での出来事を機に一番のターゲットをredに絞っているらしいとのこと。
「…奴らを潰そうと思えば、スピード勝負なわけか…」
アジトの位置は何日交替や次はどこと言う一貫性が全くないらしい。過去いくつかのチームが先手必勝を試みるもアジトを見つける前に逆にやられてしまっていた。
スネイルのメンバーは、総長初め幹部は全て常に覆面を被っており、その素顔を知るものはいない。これが、スネイルが他のチームよりも有利に事を勧められる一つの手なんだろう。
「ただの卑怯者じゃねえか」
「実に狡猾でずるがしこい奴だな、スネイルの総長は。自分がこの近辺のチームを統一することができてから素顔を見せるつもりなんだろう。自分の情報が一切もれないように徹底しているところなんか尊敬に値するがな」
対して、こちらはすでに面が割れている。それだけでも二手遅れていると言っても過言ではない。
「奴らは、必ず、弱点となる人質を盾にするらしい。お前たちは幹部の奴らに自分の大事な人間への警護を徹底させろ。」
「二見さん、頼みがあるんすけど…」
「なんだ」
次の日、二見から頼んだ情報を受け取った晴海は一人部屋の中でパソコンに向かい合っていた。
「ビンゴ」
カチカチと情報を入力し、画面をプリントアウトして克也の部屋を訪れる。迎え入れた克也のリビングに紙を広げた。
晴海が広げたのは、この界隈の地図だった。所々に赤い印と青い印がしてあり、番号がふってある。
晴海が二見に頼んだのは、スネイルが今まで使っていたアジトの場所と人質を攫った場所だった。二見の情報によれば、やつらは移動に一貫性がないと言われている。だが、晴海はそうは思わなかった。二見の話からすれば総長は恐ろしく警戒心が強い人間だ。それは裏を返せば、誰も信用しないということ。つまり、アジトの移動や人質の拉致などに関して人任せにするはずがないと考えた。
必ず、自分が計画を立て、指示をしているはず。だとすれば、どうしても範囲や動きにクセがでるはずだ。
「見てくれ、これが奴らの足取りだ」
地図に散りばめられた赤い印と青い印と、番号。それは見る限りなんの統一性もないように思えるが、晴海はそこに小さな綻びを見つけ出した。
赤い印は、奴らが今までに使ったアジト。青い印は、人質が拉致された場所だった。
「あいつらは足が着くことを極端に恐れているために、乗り物を一切使わないんだ。人質の拉致にバイクであれ、自転車であれ痕跡の残りそうなものは絶対に使わない。」
青い印は、ランダムではあるが全て赤い印から一キロ圏内にあった。つまり、人質の拉致は全てアジトから近い場所で行われている。いや、逆を言えば拉致をした近くにアジトを構えると言うことだ。
「奴らは、ターゲットをこちらに絞ったばかりでまだアジトは確定していないだろう。だが、お前が怪我をしていることは知っているはずだから動き出すとすればこの一週間以内だ。警察の目もゆるみ出す頃合いだし、こちらの警戒も薄まる頃だと判断するだろう。」
後、もう一つ。晴海は克也にどうしても告げなくてはならない事があった。
「…奴らは、攫う人質にも好みがあるらしい。恐らく自分では気付いていないだろうが、人質は一番小さい人間をさらっている。」
晴海の言葉に、克也がぴくりと反応した。
「…狙われるのは、梨音だって言いたいんだな」
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