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次の日から、紫音はいつにも増して雰囲気が厳しくなった。以前なら、本を読んでいても少し表情が柔らかいときなどがあったりしたのだが、今は全くその表情を動かす事がない。『氷の君』と密かに呼ばれていたその名のごとく、凍てつくような冷めた表情。

梨音ですら震えそうになるその態度は、周りのもの全てに改めて紫音に対する恐怖心を抱かせた。

梨音は、そんな紫音を見るのがとても辛かった。あの時。自分がわがままを言わなければ。紫音と克也が話す前に、『だめ』と言われた時点でミラーハウスをやめていれば。

克也が『一緒に行く』と言ってくれた時、梨音は正直とても嬉しかった。初めての、二人きり。そのことに、ひどく胸が高鳴った。梨音は、心配そうに自分の背を押した紫音のことよりも、一瞬克也と二人になれるという状況に惹かれてしまった。

その後の事を思い出すと、今でも後悔で胸がつぶれそうになる。目の前で真っ赤な血を流し倒れ込む克也。引きずられ、大した抵抗もできず連れ去られた自分。必死の形相で駆けつけ、助け出してくれた紫音。

なんの力もない自分が情けなかった。

結果、紫音につらい思いをさせ、以前よりもさらに心を閉ざさせてしまった。

「ごめんなさい…、克也先輩…。ごめんね…、しーちゃん…」

遊園地から帰ったその日から、梨音は夜になるとかっちゃんを抱きしめながら泣いていた。克也に、会いたい。会って、ごめんなさいをしたい。でも、紫音の事を思うと言い出せない。紫音は寮の部屋に帰ってくると、いつものように振舞ってくれる。でもそれは梨音の目にはとても痛々しく映った。明らかに、無理をしている。それでも、『自分のせいだ』という思いが強すぎて梨音は何も言えなかった。

遊園地に行った次の日から、紫音は梨音の部屋で眠ることがなくなった。梨音は、紫音も一人で泣いているのだと気付いてはいた。
悲しい事があると、どちらともなくそっと寄り添い泣きながら抱き合って眠ることが普通だった自分たち。でも、今は二人が二人とも、自分の犯した罪によりひどく心を痛めていたためにお互い寄り添うことすらできなかった。

梨音は、紫音に対しての罪悪感で。紫音は、梨音に対する罪悪感で。
そして、二人とも克也と晴海に対しての罪悪感で傷ついた己を己で抱きしめるしかできなかった。

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