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11

克也の病室へ戻った晴海は無言でベッドわきの椅子へ腰かける。克也も晴海も、お互い何も発しない。ただただ無言で、それぞれ思案していた。

晴海が紫音を追って駆けつけた時、ちょうど紫音が回し蹴りを放っている瞬間だった。まさに、電光石火。あんなにきれいな動きは見たことがない。一瞬見惚れてしまうほどだった。
梨音の泣き声でハッと我に返り、こちらへ梨音を連れて向かってくる紫音の表情を見た瞬間、晴海はひどくショックを受けた。そこには、先ほどまでかわいらしい笑顔を浮かべていた木村紫音などいなかった。いるのは、木村梨音の守護者である紫音。
初めて相対したときの、あの氷のような表情を浮かべた紫音だった。

「秋田先輩!たき、滝内先輩は…!?」

晴海の姿を確認した梨音に克也の安否を問われ、晴海はようやく紫音から意識を戻す。慌てて二人を伴い、克也を病院へと連れて行った。
克也が治療と検査を受けている間中、梨音はずっと胸の前で祈るように手を組んでいた。ようやく全ての検査が終わり、病室に移ったところで紫音からの質問を受けたのだ。
克也が無事でよかった。梨音も無事でよかった。あの時、紫音が気付かなければ梨音はあのまま奴らに連れ去られ、最悪の事態を迎えていただろう。

今回の自分たちの認識の甘さに二人はひどく後悔した。

あの時、紫音があの場を離れるのを不安がった時。ミラーハウスの出口で、ベンチに座って話をして待つことだってできたはずだ。
『晴海とまわってこい』と言わなくてもよかったはずだ。

それぞれが、自分の行動を振り返り自己嫌悪に陥る。紫音と、遊園地を回りたい。梨音と二人で行動したい。どうしても、その欲望に勝てなかった。今日だけの事ではない。二見から話を聞いていたのだから、先に奴らをどうにかして、安全になってから誘ってもよかったのだ。

晴海は先ほどの紫音の表情が頭から離れなかった。自分の呼びかけに振り向いたあの一瞬。紫音はひどく泣きそうな顔をした。だが、次の瞬間には無表情に戻った。その表情は、晴海の一切を受け付けようとしないものだった。
病室から出る前に、紫音は一切の関わりを断ると宣言した。

『好きにすればいい』

あれはきっと、そうすることで自分の偽りを晴海に吹聴されるかもしれないと考えての言葉。その言葉は何よりも晴海の心を抉った。
責められる方がましだった。あの言葉は、紫音が晴海に対しての信用はもうないと断言したのと同じなのだ。

ようやく、伝えられたのに。伝わって、くれるところだったのに。

「…克也」

長く続く沈黙を破ったのは晴海だった。晴海の呼びかけに弱弱しい表情のまま顔を向けて、克也は晴海の表情を見て目を見開いた。

「…奴らを、潰すぞ。一刻も早くだ。」

晴海の目は、明らかに今までと違っていた。決意をにじませた、力強い輝き。そして、晴海の言葉に、ひどく驚く。今まで自分たちは、売られた喧嘩しか買わない。自分たちから手を出して相手をどうこうしようとしたことなどない。しかも、チーム一番の温厚な『仏の副総長』の異名を持つ晴海が『相手を潰す』と宣言したのだ。

「徹底的にだ。残党一人残さねえ。俺たちに復讐しようなんて気も起こさせねえほど完璧に潰してやる」

晴海は膝の上でぐっと拳を握る。
やってしまった事を後悔するのはおしまいだ。なくした信用は、これから取り返す。その為に、今自分が真っ先にやらねばならないこと。それは、根本の原因であるスネイル自体を潰すこと。

事が片付いたら、その時は。

「…今さら、逃がさねえよ」
「…同感だ」

先ほどまでの弱弱しい表情から一転、晴海の宣言を聞いた克也もその目に力を取り戻す。晴海が誰の事を言っているのかは、あえて聞かない。だが、二人の目的は同じ。

二人はそれぞれの想い人への思いを胸に決意を固めた。

end


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