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10

病室で、重い空気のまま誰一人として口を開こうとはしない。ただ、白い部屋で小さく鼻をすする音が響く。
克也は、全治二週間の怪我を負った。精密検査の結果異常はなかったが、打たれたのが頭なので大事をとって1日入院することとなった。

「…あんたらは知ってたのか」

重い空気の中、沈黙を破ったのは紫音だった。

「あいつらは、今まで梨音に手を出そうとしてきた奴らと明らかに違う。あれは、別の目的があっての拉致だ。説明してもらいたい」

紫音の言葉に内心克也も晴海もひどく驚く。まさか、あの一瞬であいつらの事をそこまで分析できるだなんて。だからこそ、梨音は今まで無事守られていたのだろう。紫音の守護者としてのスキルに改めて感心すると同時に、克也は激しい自己嫌悪に陥った。

「…あいつらは、『スネイル』というチームのメンバーだ。たまたま、同じ遊園地に来ていたらしい。」
「…」
「やつらのことはつい先日、二見さんから聞いたばかりだった。なんでも、めぼしい勢力の他チームを潰していっているらしいと。…知っての通り、俺はこの地域No.1チームの総長をしている。おそらく、やつらの中で潰す候補に当たっていて顔写真なんかもチーム内に出回っていたんだろう…。二見さんにも、『警戒しろ』と言われていた」

黙って克也の話を聞いていた紫音が、ぐっと拳を握りしめ克也を睨みつけた。

「…あんたは、自分が危ない立場にあると知ってたのか。」
「…奴らの拠点は俺たちの街の二つ向こうだ。情報をもらった限りでは、まだ本格的にこちらに手を出してくる段階ではないだろうと…。
…、勝手に、判断した。今日1日くらいなら、大丈夫だろうと。今日1日だけ、自由を満喫したら、チームの方に専念するつもりだったんだ…」
「あんたは、俺に『任せろ』と言った」

ぴしゃりと紫音の放った言葉に、克也は俯いていた顔をあげる。紫音はひどく無表情だった。

「『梨音を頼む』と言った時に、確かに『任せろ』と言ったんだ。」

克也はなにも返すことができなかった。不意打ちをくらったとはいえ、梨音を危険な目に遭わせてしまったのは事実。二見の忠告を軽視してしまった。きちんと自分の立場を把握しているのなら、二手に分かれるべきではなかったのだ。

「…悪いが、もうあんたのそばに梨音をいさせるわけにはいかない。今後、校内での関わりも一切なくしてもらう」
「…!」
「しーちゃん!」
「行くぞ、梨音」

それだけを言い放つと、紫音は反論を口にしようとした梨音を圧力で黙らせ、肩を抱いて病室を出た。

「待って、紫音ちゃん!」

二人が病室を出てすぐに、晴海が飛び出して呼び止める。晴海の声に紫音は一瞬体をびくりとすくませるも、返事を返すことはない。

「…紫音ちゃん、」

もう一度名を呼ばれ、紫音はゆっくりと晴海の方へ振り向く。

「…好きに、すればいい。」

一言だけ。紫音は晴海の呼びかけに対し一言だけそう返すと、梨音の手を引き振り返ることなく病院から立ち去った。

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