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9

突然、四人の男にぐるりと座っているベンチを囲まれた。
決して友好的ではないその雰囲気に、克也は立ち上がって梨音の肩を抱き自分に引き寄せる。

「…なんだ、てめえら」
克也はあくまで冷静に、低い声で相手を威嚇する。にやにや笑う4人の男に、梨音は怯えて克也の服をぎゅうと掴んだ。

「redの総長の、滝内克也さんだろ?はじめまして。おれら、スネイルでっす。」
「いやあ、俺たちラッキーだなあ。たまたま遊びに来た遊園地で次の標的に会えるだなんてさ。しかも」

ひとりの男が、梨音に視線を移しいやらしい笑みを浮かべた。

「超おいしいコマまで連れてんじゃん。」
「てなわけで、その子もらうね。」

へらへらと笑うそいつ等に、克也の頭に一瞬にして血が上る。

「てめえら、ふざけ…っ!?」

威嚇しようとした瞬間。ガツンと後頭部に衝撃を感じ、克也はその場にがくりと膝をついた。後ろにいた男が大きな石で克也を殴ったのだ。

「先輩っ!」
「おっと、きみはこっち〜」

うずくまる克也を支えようとした梨音は、その腕を引かれあっという間に相手の手中に収まった。
4人の男は、自分たちの体をうまく周りからの隠れ蓑にして頭から血を流し朦朧とする克也を引きずり、ミラーハウスの裏の死角に投げ捨てる。

「先輩っ、先輩っ!」
「じゃ、この子はもらっていくよーん。」
「秋田晴海連れてさ、二人でおれらの溜まり場に迎えに来てあげてよ。後で場所連絡すっからさ」
「じゃあね〜」
「やだぁ―――!」

朦朧とする意識の中で克也は梨音の叫びを聞いていた。

「やだ、やだ、離して…、先輩、先輩が…」

梨音は4人に引きずられながらも克也のことばかりを口にした。

先輩、血が出てた。あんなに強い先輩が、がくんって倒れた。きっときっと、すごく大変な怪我をしたんだ。

無事なのだろうか。生きているのだろうか。梨音は倒れ込んだ克也の姿が頭から離れず泣きじゃくっていた。

「君ほんっとかわいいね〜。男の子じゃないみたい。」
「力も弱いなあ、ほら見ろよ、この細っこい体!」
「やあ…!」

梨音を囲み連れ去りながら横に付いていた男が服の上から梨音の体を撫でる。その感覚に梨音は遥か昔自分の身に起きた忌まわしい出来事をフラッシュバックさせた。

「ひ…、いや、いやだ…!しーちゃ…!しーちゃん…!」

突然顔を真っ青にし、がくがくと震え焦点の合わない目で誰かを呼んだ梨音に4人は不思議そうに顔を見合わす。

「しーちゃん?なんだ、チームの誰かか?」
「あいつらの主力にそんなやついたかな?」

「梨音っ!」

立ち止まって話し合う4人が声の方向へ向くと、こちらに向かってものすごいスピードで真っ直ぐに駆けてくる1人の男がいた。4人は本能で、瞬時にそちらに向かって身構える。

「なんだてめ…、ぐあっ!」

だが4人の体制が整うよりも早く、身構えようとしたその時にはその場に追いついていた男に一番近い仲間は吹き飛ばされていた。

「しーちゃん…!」
「梨音、頭を下げろ!」

紫音の掛け声に、梨音が頭を抱えてしゃがみ込む。と同時に、紫音はその場を軽く蹴って体をひねり飛び上がると三人めがけ回し蹴りを放つ。しゃがみ込んだ梨音の上を風を切るような音がして、小さな叫びやうめきが3つ聞こえたかと思うと、たん、と言う紫音の軽い着地音と同時に梨音を囲んでいた男たちは全て蹴り飛ばされ呻いていた。

「梨音、大丈夫か…!」
「しーちゃ…、ふぇ、しーちゃん…!っ、うあああん…!」

自分を抱きしめる紫音の姿に安心し脱力した梨音は、その場に泣き崩れ力なく紫音の服を掴む。

「て、めぇ、は…、なにもん、だ…!」

重い一撃を食らい、起き上がれないまま男が紫音に問いかける。だが紫音はそれには答えずギロリと射殺すようなにらみを返す。その目を見た男たちは皆一瞬にして竦み上がり体中から汗を吹き出した。紫音はそんな男たちを一瞥し、泣きじゃくる梨音を抱きしめたままその場を去った。

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