×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




6

「ほらほら、紫音ちゃん!こうやって両手挙げてみて!」
「せ、先輩、危ないよ!きちんと前のレバーを持ってくださいって、お姉さんが…」
「わー!」
「きゃー!」

二人で並んで座ったジェットコースターで、はしゃいだ晴海が両手を高くあげ紫音が慌ててその手を下ろそうとする。その瞬間急降下し、紫音は下ろそうと掴んだ晴海の腕をしっかりと握りしめる。

「ほらほら行くぞ!超スピン!」
「先輩、目が回る…っていうか、まっすぐ座ってらんないよぅ!」

コーヒーカップに二人で乗り、晴海はわざとカップを速く回転させる。遠心力に負けた紫音が晴海側に倒れ込み、椅子から落ちまいと晴海にしっかりとしがみつく。
一つ乗り物を終えるたび、晴海は必ず紫音に行きたいところを聞いた。そして、遠慮がちに言う紫音の希望は全部叶えてやった。そのたび、はしゃいで、わざと自分にくっつくように仕向ける。初めは戸惑っていた紫音も、だんだんと自然に晴海に甘えるようにしがみついたりもたれかかったりするようになった。
久しぶりに見る紫音の心からの笑顔に晴海はこの上ない幸せを感じる。

このまま、時が止まればいい。

隣で笑う紫音を、ずっとずっと見ていたいと心からそう思った。

「先輩、ありがとう」

しばらく二人で遊園地を堪能した後、時間近くになりミラーハウスへと向かう途中で紫音が晴海に礼を言った。

「え、何が?」
「すごく楽しかった。先輩が、俺といっぱいいっぱい遊んでくれてすごくすごく楽しかった。」

紫音の言葉に、晴海が歩みをぴたりと止める。
…今なら、言えるだろうか。

「先輩?」

急に立ち止まった晴海を不思議そうに首を傾げて見つめる紫音の頬を、そっとなでる。

「俺も、楽しかった。好きな子と、いっぱい遊べてすごくすごく楽しかった。」
「俺も、先輩好きだから楽しかったよ。」
「違うよ、紫音ちゃん」

微笑んで『好き』と返す紫音に、緩く首を振る。紫音はきょとんとして晴海を見た。

「違う…?」

どういう意味だろう。本当は楽しくなかったという意味だろうか。それとも、『好き』が違ったのだろうか。とたんに、夢を思い出して紫音はまた恐怖にかられる。
どうしよう。まさか、あれは正夢で今から晴海は夢と同じことを言うのではないだろうか。がくがくと膝が震え胸がばくばくと激しく鼓動する。
そうだ。りーちゃんが、滝内先輩と二人きりになるのを俺が邪魔しないように、俺を連れ出したんだ。本当は、二人でなんて遊びたくなかったんだ。
この一時間、晴海が本当に自分と遊ぶのを楽しんでくれているのだと思っていたけれど。それは、滝内先輩のためなんだ。
自分の行き着いた考えに、ズキンズキンと胸が痛む。泣きそうな顔をして胸のあたりをぎゅうと掴む紫音の手を、頬を撫でる手とは逆の手で晴海がそっと触れた。

「ほら、そんなに強く握っちゃおててが痛くなっちゃうよ。」
「…せんぱ…」
「…あのね、紫音ちゃん。俺がさっき言った『好き』はね」

――――聞きたくない!

自分の手と頬に優しく触れる晴海。それが、嘘だなんて聞かされたくない。紫音はぎゅっと目をつぶり、唇を噛み締めて俯いた。

「お友達よりも、もっと深くて甘い『好き』なんだ。」

[ 235/283 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
トップへ戻る