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5

『今回二手に分かれよう』

克也の提案に内心晴海はガッツポーズをした。

グッジョブ、克也!

晴海も、本当は紫音と二人で回ってみたかった。いつもなら紫音の『梨音を守りたい』という意志を尊重しただろう。だが、晴海は自分の欲に負けた。心配そうに眉を寄せる紫音を見て心が痛まなかったわけではないが、これはどちらにとってもいい機会なのではないかと思ったのだ。

「…紫音ちゃん」

いまだ二人の消えていった建物の入り口をじっと見つめる紫音に呼びかけると、びくりと肩をすくませて振り返った。

「あのアトラクションさ、クリアまで1時間近く掛かるんだって。今流行の脱出ゲームっての兼ねてるらしいよ。」
「…1時間…」
「それまでここで待ってるの、つまんないでしょ?ね、俺とその1時間だけ回らない?」

晴海の誘いに、紫音は泣きそうな顔をしてもう一度ちらりとミラーハウスを見る。

「1時間だけ!1時間経ったら、ちゃんと戻ってくるから!ね、せっかく来たんだもん。アトラクションの中で何かあるなんてことないよ。スタッフさんたちがいるんだし、カメラだって着いてるだろうし。」

確かに、その通りだ。中にいれば危険なんてない。それに、克也は梨音から離れないから任せろと言ったんだ。

「…1時間、だけ。」
「…!よし!行こう!」

こくりと頷き、小さな声で了承した紫音の手を取り晴海は駆け出した。

「なにする!?さっきいっぱい乗ったけどもっかい乗りたいのある?あ、空中ブランコとか?紫音ちゃん、意外にジェットコースターも楽しそうだったよね!」
「せ、先輩、速い…」

紫音の手を引きながらさも嬉しそうにどのアトラクションにしようかと駆ける晴海に、紫音が待ったをかける。それに気付いた晴海が慌てて足を止め、紫音を振り返る。

「ご、ごめんね、紫音ちゃん。1時間しかないから、早くって思っちゃって…」
「先輩も、ほんとはなにか乗りたいのがあったのか?」
「…紫音ちゃん」

つん、と晴海が突然紫音のおでこをつついた。何事かと紫音がおでこにてをやると、晴海はにこりと微笑んでがしがしと紫音の頭をなでた。

「今は二人だけなんだよ?こんなとこに、学校の奴なんていないし守るべき梨音ちゃんも今は別のナイトが守ってる。つまり、紫音ちゃんは演技をする必要がないの。俺といるときは、いつものかわいい紫音ちゃんに戻っていいんだよ。」
「あ…」

言われて初めて、紫音はいまだ晴海の前でも演技をしている自分に気がついた。
…いつもの、自分。

「…わ、笑わない?」
「笑う訳ないでしょ!ね、ほんとの紫音ちゃんは何に乗りたいかな?」
「ぞ、ぞうさんのお空飛ぶやつに乗りたい」
「よし、いこう!」

笑顔で手をさしのべる晴海の手を紫音がしっかりと握り返す。優しい笑顔で手をつないでくれる晴海の行為が、嬉しくて。
いまだけ。1時間だけ、本当の木村紫音に戻ろう。先輩と、遊園地を楽しもう。
紫音は先ほどまで泣きそうだったその顔に、満面の笑顔を浮かべた。

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