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4

「うわあああ!」

きらきらと目を輝かせて喜ぶ梨音。
今日は、二人を連れて四人で遊園地にやってきたのだ。梨音だけでなく、紫音も顔には出さないようにしているがすごく嬉しそうだと晴海は気づいた。

「すごいねしーちゃん、久しぶりだよね!ね、ね、僕あれ乗りたい!お馬さんが回るやつ!いい?先輩、いい?」

ぴょんぴょんと跳ねながら克也に必死に訴える梨音に、克也は優しく微笑んで頷く。

「やったあ!しーちゃん、行こう!」

だが、流れから言って当然自分の手を引っ張るものだろうと思っていた克也はあっという間に紫音の腕を取りメリーゴーランドに駆け出してしまった梨音にちょっと泣きそうになった。

「くっそ…!マジ何なんだよ、あいつ…!」

随分と紫音よりも自分よりになってきていたはずなのに。梨音にとって、紫音は特別なのだとこんな時にはまざまざと思い知らされる。そんな克也の肩を叩き、晴海は二人を追いかけよう、と促した。

「せんぱーい!」

くるくると回るメリーゴーランドから、にこにこと笑いながら手を振ってくる梨音に克也も手を振りかえす。姿を現す度に自分を呼んで笑顔を見せる梨音。

なんてかわいらしいんだ。

笑顔で梨音を見つめるその姿からは、誰も克也が『鬼神』と称されているだなどと想像もつかないだろう。
一方、克也の隣で晴海も誰も見たことがないほどのとろけた笑顔を浮かべていた。克也は恐らく晴海も梨音を見てその笑顔なのだろうと思っているのだろうが、実際は違う。

何あの子。必死に無表情装っちゃって、顔真っ赤で目がきらきらしてんのきっと自分でわかってないんだろうなあ。

紫音は、梨音の隣で同じように馬に乗っていた。その顔はあくまで涼しく無表情。だが、内心は違っていた。

楽しいなあ!お馬さん、揺れるんだ!すごいなあ、おとぎ話の中みたいだなあ。

本当は自分も梨音のようにはしゃぎたいけれど、克也がいる前でそうするわけにはいかない。だから必死に自分の感情を隠そうとして顔が真っ赤になってしまっていた。

「くくっ、あいつ、恥ずかしいんだろうな。あんなナリでメリーゴーランドだもんな」
「ああうんかわいいね」

晴海からの返しに克也は眉間にシワを寄せる。

かわいい?あいつがか?

克也の視線に気づきもせず、晴海はひたすらに回るメリーゴーランドを見ている。

…まさか、とは思うが。

克也は緩く頭を振り、晴海と同じようにメリーゴーランドに視線を戻した。それからも、いくつもの乗り物に乗っていくが梨音の隣はいつも紫音。克也は全ての乗り物を晴海と二人で乗せられもう我慢の限界に来ていた。
そんなとき、梨音が次にミラーハウスに入りたいと言い出したのだ。

「…そこはだめだ」

今まで全ての乗り物に付き合っていた紫音が、初めてストップをかけた。実は紫音は、あの夢を見てから鏡が怖くてしかたがないのだ。夢ではなく現実でも、鏡の向こうの自分がまた歪な笑顔を浮かべて自分を責めてきそうで。

「…そんなに怒るほどの事でもねえだろうが」

眉を寄せ梨音を睨みつける紫音に克也が怪訝な顔をする。実際は睨んでいるわけではないのだが、克也にはそう見えるのだろう。

「俺が代わりに一緒に入ってやる。」
「…!そ、れは…」
「いいじゃねえか。梨音はここに入りたい。でもてめえは入りたくない。なら今回位二手に分かれてもいいんじゃねえか?このアトラクションは結構中で色々イベントをクリアしていくやつらしいから時間もかかるだろうし、待ってる間てめえは晴海と待つなり回るなりしてろ」

克也の提案に紫音がますます眉を寄せる。そんな。りーちゃんと離れるだなんて。りーちゃんを、俺の目の届かないところに一人で行かせるだなんて。

「…何を心配してんだか知らねえがな、俺は一応てめえも知る通り不良どもの頭張ってる。喧嘩だってそこそこやるつもりだ。中でも梨音からは一歩も離れたりしねえ。それに、こんながきんちょばっかの遊園地で何か起こるようなことがあると思うか?」
「…」
「紫音ちゃん、克也は結構強いよ。任せても大丈夫じゃないかなあ?」

確かに、こんな家族連ればかりの遊園地で梨音が襲われることなど万が一なのかもしれない。

「し、しーちゃん、いいよ!ごめんね、僕はしゃぎすぎちゃったよね。次はしーちゃんの好きなところに行こう?」

それでも、と渋る自分を心配そうに見ていた梨音が何かにきづいたのだろう。慌ててミラーハウスを後にしようとする梨音の腕を取る。

「…しーちゃん、」
「…いい。大丈夫だから、梨音は楽しんでおいで。先輩、お願いします。」

せっかく楽しみにしているのを、自分のわがままであきらめさせるだなんて。
梨音を克也の方へ押しやり、ぺこりと頭を下げる。任せろ、とにやりと笑い梨音の手を取りアトラクションへ向かう二人の背中が建物の中へ消えてしまうまで紫音は黙って見続けていた。

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