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「そういや、最近また街ん中が不穏な空気になってんぞ」
グラスをテーブルに置き、自身も二人の向かいに座った二見が先ほどの空気から一転、真剣な顔をして話し出した。
「最近、よそのチームが二つほど潰されたらしい。潰したのは最近急激に勢力を伸ばしてるって噂の『スネイル』って二つ町向こうにあるチームだそうだ。そこの総長がえらく汚い奴らしくてな。まずは狙ったチームのメンバーのやつの知り合いや家族、恋人や親しい友人なんかに手を出してくるそうだ。」
二見の話に、克也と晴海が一瞬にしてチームのトップの顔になる。
「この近辺じゃ姿を見ねえがな、注意しとくに越したことはねえ。俺もできるだけ情報を集める。いつも以上に警戒しろよ。てめえらにゃ、大事なもんが増えたんだ。」
二見の言葉に、克也と晴海は無言で頷いた。
「滝内先輩、どうしたの?」
次の日の昼休み、いつものようにお弁当を皆で囲んでいると克也を見ていた梨音が突然克也に問いかけた。
「いや、なんもねえが…どうした?」
「…いつもより、お顔こわい。どうしたの?何か嫌なことでもあったの?」
克也は梨音の言葉に驚いた。昨日の晩二見から話を聞いてから克也はそのことをずっと考えていた。だが、梨音の前では至って普通に、いつもと同じようにしていたつもりだったのに。意外に鋭い梨音に感心するも、全く関係のないチームの事を話してわざわざ怖い思いをさせることもないだろうと、克也はふ、とその口元に甘い笑みを浮かべて梨音の頭を撫でた。
「いや、ちょっと考え事だ。…お前とまた街に行きてえなってな。」
微笑みを浮かべたままそう言って頭を撫でていると、梨音が顔を真っ赤にしてもじもじとして克也を上目づかいでじっと見た。
「…ぼ、僕も。僕も、先輩と、遊びに行きたい…な…」
そのセリフを聞いた瞬間、克也の頭の中からそれ以外の事が吹っ飛んだ。
「行こうか、梨音。明日の土曜日。」
二見から不穏な話を聞いた直後だが、離れている街での出来事だし大丈夫だろう。まだこの街ではそのチームの噂はかけらほども聞いたことはない。情報通の二見だからこそ手に入れられた話のはず。
明日一日。それが終われば、しばらくはチームの方に集中しよう。
克也は、最後の平穏な日だと心に決めて梨音を遊びに誘った。
「!う、うん!」
「だめだ」
克也の提案に嬉しそうに大きく頷いた梨音に間髪入れずにきっぱりと提案を断ち切ったのはやはり紫音だった。じろりと克也を睨み、無言の圧力をかける。
「…わかってるっつの。だから、なにも二人でとは言ってねえだろうが。こないだみてえにてめえもくりゃいいだろう」
大げさにため息をつき、また4人での遊びの提案をすると今度は晴海がそれに乗った。
「行こうよ、紫音ちゃん!ね、一緒に行くなら安心だよね?」
「…」
必死に遊びに誘う晴海の態度に、紫音の胸にまたもやもやと言いようのない焦りが生まれる。
…りーちゃんと、滝内先輩が仲良く遊べるように、俺も誘うんだよね…。俺が、いつもダメって言うから…。
「…しーちゃん…?」
紫音のいつもとは違う様子に気付いたのだろうか、梨音が心配そうに声をかけてくる。そんな梨音を見て、紫音は自分の焦りを悟られまいと4人で出かけるなら、と承諾した。
それが、この関係が崩れてしまう第一歩になってしまうとは予想もできなかっただろう。
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