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7

「…りーちゃ…、ふぇ…っ、りーちゃあん…うああぁん…」

目の前の梨音を確認すると同時に、紫音はくしゃりと顔を歪めて梨音にしがみつきボロボロと涙をこぼした。

「よしよし、怖い夢見たの?大丈夫、大丈夫だよ。僕がついてるからね。」

とんとん、と背中を叩いてあやしてくれる梨音に顔を押し付ける。

怖かった。ものすごく、怖い夢だった。
晴海が、あんなことを言うなんて。

ちがう。あんなの、晴海先輩じゃない。晴海先輩に限って、と思う反面、夢の晴海の言葉が頭から離れない。梨音は紫音を抱きしめたまま紫音のベッドにあがり、紫音が泣き疲れて眠ってしまうまで何かにひどく怯える大事な弟を守るように抱きしめ続けた。

次の日の朝、紫音が目を覚ますと梨音はもういなかった。起き上がってめくれた布団から、るーがひょっこりと顔を出す。

「…るー…、おはよ…」

小さなるーを抱き上げて胸に抱くと、紫音はすり、とるーに頬ずりをして朝の挨拶をした。

「あっ、おはよう!しーちゃん!」

ベッドから起き上がってリビングに行くと、梨音がかわいいウサギ模様のエプロンをつけて台所から顔を出した。テーブルの上にはサラダにスクランブルエッグと、ウサギの形にカットされたりんご。

「あー、だめだめ!いいからしーちゃんは座ってなさい!」

手伝おうと台所に向かうと、梨音が慌てて紫音の向きをくるりと変えてぐいぐいと背中を押してテーブルにつかせた。眉を下げて申し訳なさそうに口を開こうとする紫音の頭を撫でて、梨音はぴっと人差し指を立てる。

「しーちゃんは、お疲れ様だから、座ってなさい。これはお兄ちゃんのめいれいです。」

わかった?と顔を覗き込まれて、紫音は黙ってこくりと頷いた。それに満足そうに笑って、梨音は台所に向かう。トースターの、チン、という軽快な音が鳴ってしばらくして、梨音がカフェオレとミルクティーを入れたマグカップとこんがりと焼けたトーストを持ってきた。差し出されたカップを受け取り、一口飲んでバターを手にしようとしたら、また梨音がめっ、と言った。

「しーちゃんは、今日は何もしなくていいの。全部お兄ちゃんがやったげるから、大人しく待ってなさい。」

その様子がなんだかおかしくて、紫音はくすくすと笑みを漏らす。

「もう、どうして笑うの?」
「だって、りーちゃん、お兄ちゃんしてるんだもん」
「そうだよ!僕はね、紫音のお兄ちゃんなんだからね!」

腰に手を当てて、えっへんとふんぞり返る梨音に紫音はさらに笑みをこぼす。そんな紫音を見て、梨音は顔に安堵の色を浮かべ、紫音の頭を撫でた。

「しーちゃん。だから、だからね。なにかあったら、絶対に、僕に言ってね。約束してね。」

頭を撫でる梨音をじっと見つめ、紫音はまた少し悲しそうに目をそらす。紫音は、夢を思い出して痛む胸を押さえてこくりと頷いた。

今日も学校で一緒にお昼ご飯を食べることになるだろう。晴海に会うのを、ほんの少し、恐れている自分がいる。

怖い。でも、会いたい。
相反する二つの心がなぜこんなにも痛むのか。
紫音はわからないままにぎゅう、と胸のあたりを掴んだ。

end


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