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6

晴海と別れ、部屋に戻った紫音はなんとなくベッドに腰掛け、枕を膝におきぽすぽすと叩いていた。

…今日の先輩、ちょっとだけ変だった。昨日まで、あんなにぎくしゃくとした態度で全然お話もしてくれなかったのに。

今日もまた、気まずいままなのだろうかと少し落ち込んでいた紫音は昼休みに自分にばかり話し掛ける晴海にとても驚いた。先日までの態度とあまりにも違う晴海に、困惑してあんなことを言ってしまったのに、自分の事を好きだと言ってくれた。
嬉しくて、嬉しくて。

「俺みたいなの、でも、仲良くしてくれるんだよ。」

ベッドに寝かせてあった、晴海にもらったぬいぐるみを抱き上げて話しかける。

『紫音ちゃん、好きだから』

晴海の言葉を思い出して、ふにゃりとにやける顔をぐりぐりとぬいぐるみに擦りつける。

「そうだ。君にお名前付けないといけないね。」

紫音は、集めたぬいぐるみ全てに名前を付けている。お父さんにもらったトラネコのぬいぐるみは、とらきちくん。お母さんに作ってもらった白猫のぬいぐるみは、ろんちゃん。梨音からもらったシャムネコのぬいぐるみは、むーこちゃん。他にも、部屋にあるぬいぐるみ全てに名前を付けているのに、晴海にもらったこの子だけ名前を付けるのを忘れていた。

…本当は、もらったその日につけたかった。もらったときはすごく嬉しくて。ベッドに一緒に入った時も、自分だけにと貰ったこの子がかわいかったのに。じっとこの子を見ていると、晴海から言われた今までの言葉を思い出して、なんだかすごく悲しくて。この子は、本当に自分の元にいてもいいのだろうか。そう思って、この子は悪くないのに、どうしても名前を付けてあげることができなかった。

「ごめんね、にゃんこちゃん。お名前、呼んでほしかったよね。さみしかったよね。」

例え梨音のついででも、せっかく自分の所に来てくれたのに。自分の勝手な気持ちで、名前を付けて呼んであげなかったことをとても申し訳なく思った。

「君の名前は、」

『しーおんちゃん』

名前を付けてあげようとぬいぐるみの顔を見た瞬間。なぜか紫音は、へにゃりと笑いながら自分の名を呼ぶ晴海を思い出した。

「…君の名前は、るー、です。」

自分で決めた名前を口にした瞬間。紫音は自分の顔が熱くなるのが分かる。ぬいぐるみを膝に乗せたまま、両手で自分の頬を押さえた。

「わ、わあ…、ほっぺた、熱い…」

赤くほてってしまった頬を押さえながら、ごそごそとベッドに潜り込み、ぬいぐるみを隣に寝かせる。

「…るーくん。」

ぬいぐるみを、かるくつつく。じっと見ていると、思い出すのは晴海の事。

優しい、晴海先輩。

なのに、なぜかどうしても思い出すのは楽しい事ばかりじゃなくて。今日一日の嬉しかったことと同時に、以前言われた言葉までも鮮明に思い出す。
いけない。せっかく、晴海先輩が、俺とお話したかったって言ってくれたのに。俺の事、好きだって言ってくれたのに。

「…おやすみ、るーくん。」

考えてしまうと、不安と喜びに押しつぶされそうになる心を必死に抑えようと、ぬいぐるみに挨拶をして軽くキスをすると、紫音はすぐに瞼を閉じた。

その日、紫音は夢を見た。自分が二人いて、向かい合って言い合いをしている。

『先輩は、優しいよ。こんな俺を、好きだって言ってくれたもん。』
『そんなの、ほんとかどうかわからないよ。だって、先輩はいつもずっとずっと俺の事を睨んでたもん。』
『でもでも、お友達になってくれるって言った。』
『そんなの、滝内先輩のためじゃん。りーちゃんと滝内先輩を仲良しにするために仕方なしにお友達になるって言ったんだよ。』
『俺とお話するの、楽しいって…!』
『忘れたの?晴海先輩はね、俺を脅したんだよ。バラされたくなかったら、言うことを聞けって。…本当の紫音があんなんだって知って、今は面白くてからかってるだけだよ』

目の前で辛辣な言葉を吐く自分が、ぐにゃりと歪む。

『お前みたいなゴツくて無愛想な、二重人格みたいなやつ、好きになる訳ないだろう?』
『…は、るみ、せんぱ…』

目の前の自分は、歪んだかと思うと晴海に姿を変えていた。

『忘れるなよ。覚えてろって言っただろう?てめえとはいつか決着をつけてやるってな。今は仲良くしてやってるがな、ほんとはてめえとやり合いたくて仕方ねえんだぜ。梨音ちゃんと克也がくっついたならなあ、てめえなんざ用済みなんだよ』
『はるみ、せんぱい…』
『梨音が完全にお前から離れて克也の所に行ったらな、そんときはやり合ってつぶしてやんよ…
あはっ、あはははは!』

「やああ――――――!!!」
「!しーちゃん!」

突如聞こえた紫音の叫びに、梨音が血相を変えて飛び込むと、紫音はベッドの上で空を掻き暴れ泣き叫んでいた。

「しーちゃん、しーちゃん!」
「いやっ、いやだああ!」
「紫音!」

混乱して暴れる紫音に、梨音がぎゅうとしがみつく。その温もりに、紫音はようやくきちんと目を覚ました。

「紫音…、しーちゃん、大丈夫だよ。ほら、大丈夫。」
「りー、ちゃ…」

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