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5

「せ、先輩、大丈夫!?こらっ、にゃんこちゃん!」
『にゃあう…』
「だ、大丈夫だよ、紫音ちゃん。子猫だし、そんなに爪もないし痛くないよ。」
「でも…」

うっすらと血のにじむ手の甲を見て、紫音が泣きそうに眉を下げる。晴海が視線を紫音の抱く子猫に向けると、子猫はまた晴海に向かって威嚇してきた。

コイツ、絶対わかってやがる。

「せ、先輩。消毒してあげる。」
「え?…っ!??」

眉を下げながら、そっと晴海の手を取った紫音に何をするのかとなされるがままの晴海は、次の紫音の行動に完全に固まった。

――――――ぺろり、と。紫音が、手の甲の傷をなめたのだ。

一心不乱に小さく舌を突きだし、痛くない様にそっと舐める紫音に晴海はもう心臓が飛び出てしまいそうだった。ちらり、と舌を出したまま舐めるのをやめ、やや上目づかいに晴海を見る。

ヤバい!!マジヤバいって!!

「…先輩、もう大丈夫だよ。あとはばんそうこだね」

そう言ってごそごそとポケットを探し、一枚の猫の絵の描かれたばんそうこをぺたりと晴海の手に貼った。当の晴海は、今まで自分の身に起きていたことを頭で処理するのに精いっぱいで。固まったまま、無言でかくかくと首を縦に振るしかできなかった。

「お父さんがね、俺とりーちゃんが怪我すると小さな傷だといつも『消毒だ』ってこうやって舐めてくれるの。」

…お父さん。あんたとは一回サシで話をしなければならないようだ。

子猫は、晴海に対してまだ威嚇を続けている。だが晴海は、そんな子猫に勝ち誇ったような目線を向けた。

「…紫音ちゃん、ありがとうね。でもね、この消毒、他のやつにはやっちゃだめだよ。」
「うん。お父さんも言ってた。大好きな人にだけしかしちゃいけないから、紫音と梨音はお父さんにだけしなさいって。」

晴海はまだ見ぬ紫音の父に心の中で中指を立てた。
…あれ?でも、今何か…。

「…紫音ちゃん、だ、大好きな人にだけ、…って…」
「うん。だって、俺、先輩大好きだもん。」

にこりと微笑む紫音に、晴海は真っ赤になってしまう。紫音の言葉は、きっと自分と同じ意味ではない。この子は純粋に、小さな子供のように自分を好きだと言ってくれている。それでも。
晴海だって、付き合った人間がいなかったわけではない。『好きだ』といわれ、『好きだ』と返したことだっていくらでもある。自分に好意を寄せる人間の事はいつだって替えのきくアクセサリーのような感覚で。自分を好きだと言ってくる人間だって、自分のステータスや見た目に寄ってくるものばかりだった。
恋愛なんて、ゲームみたいなものだ。

それが、今、この子に同じ言葉を言われるだけで、こんなにも嬉しい。

「…俺も、紫音ちゃん大好きだよ。」

今は、同じ意味じゃなくてもいい。それをこれから変えていくのは自分次第。
晴海は、にこりと微笑んで紫音に『大好き』と返した。

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