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2

翌日の昼休み、晴海は今までになく緊張していた。紫音を好きだと自覚したのが昨日。そして、今からは自覚して初めての顔合わせなのだ。

「なんだてめえ、どうしたってんだ。なんか落ち着かねえな」
「うえ、えっ!?ななな何言ってんの、いつもと変わりないよ、うんうん」

紫音が来るのを今か今かと待っている間、どうやら無意識にうろうろと立ち歩いていたらしい。克也に指摘されて慌ててその場にしゃがみ込む。

やべえやべえ、意外に鋭いからな、克也。

今はまだ、克也にバレるわけにはいかないのだ。自分が紫音を好きだとばれてしまうと、きっと克也は理由を聞いてくる。そうなると、紫音が演技していることも話さなければならなくなる。それは紫音の望むところではないだろう。紫音は自分の本当の姿を誰にも言わないでほしいと言っていたのだ。梨音の友達になったからと言って、克也も例外ではないだろう。

晴海は、昨日ベッドで再び決意した後考えていた。紫音は、晴海が急にべたべた甘やかすと警戒するだろう。なんせあの子ネコちゃんは愛されることに慣れていない。自分だけに純粋に愛を捧げる人などいないと思っているのだ。そんな紫音に、自分がいきなり全開に愛をぶつけたとしたら。きっと、仮面がはがれてしまう。克也の前だけでなく、この学園全ての人の前で。
それほどに、紫音は脆いのだと思う。護る立場から、護られる立場になんていきなりシフトチェンジできるはずなんてない。きっと、紫音は与えられる愛に困惑して壊れてしまうだろう。晴海としても紫音を壊してしまいたいわけではないからそれはぜひとも避けたいところなのだ。
これから晴海がしなくてはならないこと。それは、今の状態のままいかに紫音に自分の気持ちを伝えるか、というとんでもなく大きな試練だった。

「先輩!」

鈴のように弾んだ声がしてそちらに顔を向けると、満面の笑顔でこちらに向かって駆けてくる梨音がいた。克也はそんな梨音を見て、晴海でさえ見たことのないような笑顔を顔に浮かべる。

「あっ!」

急いで駆け寄ろうとしたためか、梨音が不意につんのめってこけそうになった。あわや顔面から、という梨音をいち早く抱きとめたのは克也で。梨音は克也の胸に顔を埋め、その小さな体をすっぽりと包まれる状態に陥った。

「大丈夫か?慌てすぎだぞ、梨音」
「ご、ごめんなさい…せんぱい、ありがとう」

梨音は、お礼を言うために顔を上げて近くにあった克也の顔を見て初めて自分が今克也に抱きしめられていることに気が付いた。真っ赤になって勢いよく離れ、あたあたとズボンの汚れを払う。そんな梨音を見て克也は先ほど抱きしめた梨音の感触を噛みしめるように手を緩く握りしめた。

目の前で起きた一連の出来事を、紫音は半ば呆然として見つめていた。

…りーちゃんが、俺以外の人に助けてもらった。俺、りーちゃんを助けられなかった。

紫音は、屋上に来て晴海の姿を見つけて一瞬足を止めてしまっていた。そのため、駆け出した梨音と差が開いてしまい咄嗟にそこまで駆けよることができなかったのだ。その事実に、自分が起こした失態に、紫音はますます落ち込む。

「しーちゃん、どうしたの?」
「…いや、なんでもない。無事でよかったな、梨音」

紫音の様子に気付いた梨音が、心配そうに紫音の顔を覗き込むと紫音はなんでもない、と無理に笑って梨音の頭を撫でた。そして、克也は紫音に対して勝ち誇った笑みを向けていた。

「ささ、それよりご飯食べよう!」

不穏な空気にいち早く気付いた晴海が空気を変えようと明るく言って紫音の肩を抱き、自分の隣へ連れてくる。その行動に紫音は驚いたように顔を向け、促されるままに晴海の隣へと腰を下ろした。

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