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6

「…っ、げほっ、な、ん…っ、はあ、だ、れが…?」

むせながら必死に言葉をつなぐ。うさぎちゃんはわかる。多分間違いなく梨音ちゃんのことだろう。でも、子猫ちゃんは?
この人、誰のことを子猫ちゃんなんて呼んでるの?

「ええと、紫音ちゃんだっけな?梨音ちゃんの弟くんなんだっけ?いい子だよな、あの子」

二見の口から発せられた言葉に、内心ひどく動揺してしまった。そして、ああ、この人にはバレてた、と悔しくなった。
二見の、人を見る目は確かなのだと感心する。と同時に紫音の言葉を思い出す。

『あの人、優しいね』

自分と同じ言葉をこの人に使ったんだと思うとひどく苛立つ。明らかに不機嫌になった晴海を見て二見はにやりと悪い笑みを浮かべた。その笑顔に、晴海はまるで自分が追い詰められているように感じた。晴海は、平常心を装い二見に話しを返す。

「な、んで、あの子のこと、いい子だなんて思うんすか。強面だし、ごついし、梨音ちゃんとは全然違うでしょ?二見さんも言ってたじゃないすか。梨音ちゃんのこと、可愛い子って。」
「ああ、確かに言った。だけどな、俺はあの紫音ちゃんはかわいくないだなんて一言も言った覚えはないぜ?」

二見に返され、晴海はぐっと言葉に詰まる。確かにそうだ。二見は、紫音のことを学校のやつらや克也のように一言も言ってはいない。

…悔しい。紫音の本当を知っているのは、自分だけのはずだったのに。

唇を噛み締めて俯く晴海に、二見はさらに追い討ちをかけた。

「俺はお前がなんでそんな風に俺に紫音ちゃんに対する印象を落とそうとするのかの方が不思議だがな」
「ちがっ…!」

何言ってんだ。そんな言い方、まるで俺がヤキモチやいてるみたいじゃないか!

焦って顔を上げた晴海は、目の前で自分を見る二見の顔に言葉を止めてしまった。その顔が、自分たちをチームに誘ってきたときの、真剣なあの顔だったから。

「…なあ、晴海。ばかだなあ、お前は。自分のカテゴリーにはまらないからって、無意識に排除しようとしてるんだろうけど、そんなことしたらしんどいだけだぜ?」
「排除、…?」

首を傾げる晴海に、さらに二見が続けた。

「ああ。お前は、自分の中に入り込んでいるある感情を、無理やりナシにしようとしてる。ま、お前が選ぶことだから、それでいいってんなら何も言わねえけどな。
――――いらねえってんなら、俺が貰うぜ?あの子猫ちゃん」

がたん!と勢いよく立ち上がったために、椅子が床に転げ何事かとチームのメンバーが晴海たちに注目した。

「おら、なんでもねえよ。んな情けねえツラみんなして向けてくんじゃねえ」

しっしっ、と手で払う仕草をしながら、カウンターから出て倒れた椅子を起こす二見に、注目していた皆がそれぞれ元の位置に顔を戻す。そのうちまたわいわいと騒ぎ出し、二人に注目するものもいなくなった。

「す、すんません…」

二見の起こしたイスに座り直し、小さな声で謝罪をした晴海は明らかにショックを受けた顔でジュースを飲み干す。そんな晴海に、二見がにやりと笑いながら新しいグラスを差し出した。差し出されたグラスと、二見の顔を見たこともないほど情けない顔をして晴海が交互に見つめる。そんな晴海を見て、二見はしょうがねえガキだな、と笑ってくしゃくしゃと頭を撫でた。

「…だ、だめっす。」

頭をなでられながら、晴海がぽつりと呟く。二見は手を頭に置いたまま、晴海の顔を覗き込んだ。

「いくら二見さんでも、紫音ちゃんはだめ。あの子、あの子は…」

ぎゅう、とグラスを両手で握りしめ、真っ直ぐに二見を睨みつける。

「あの子は俺の大事な子だから、二見さんにだってあげない」

今までに見たことがないほどの真剣な眼差しで、晴海ははっきりとそう言った。

end

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