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3

晴海が去った後、子猫を帰し自室に戻る。

音を立てないようにそっと扉を開け、自分の部屋に戻ると紫音は手に持ったぬいぐるみを自分横に寝かせ、そっと一緒に掛け布団をかけてベッドにもぐりこんだ。

「……」

ころんと寝返りを打ち、自分の隣に寝かせたぬいぐるみをじっと見る。

今日のお出かけで、機械の中にある沢山のぬいぐるみを見て紫音は梨音と同じく内心目を輝かせていた。

かわいいなあ。にゃんこちゃんのぬいぐるみ、俺もほしいなあ。

自分で取ろうにもやり方が全くわからないし、それに夢中になってしまっては梨音への警戒がおろそかになってしまう。
紫音は泣く泣くぬいぐるみを諦めた。

張り合うかのように、次々と梨音に渡されるぬいぐるみを見てうらやましくなかったといえば嘘になる。特に、晴海が梨音に突然うさぎのぬいぐるみをとってあげたときには紫音はなぜか初めてズキリと胸が痛んだ。

でも。

「…はじめて、誰かから俺だけのぬいぐるみ、もらっちゃった…。」

昔から、今まで梨音は沢山のプレゼントをよく渡された。かわいい梨音に見合う、かわいらしいものばかり。紫音には、梨音がいつもプレゼントをしてくれた。お父さんとお母さんも、してくれたけど。それでも。

本当は、自分も誰かに自分だけに、と渡してほしいと、思っていた。

『梨音ちゃんにあげようと思ったのを間違って取ったから』

晴海の言葉を思い出して、またちくりと胸が痛む。

そうだよね。先輩も、リーちゃんの方がかわいいって言ってるもんね。

…俺みたいな、ゴツくて、無愛想なの、かわいいなんて思わないって。
そう言ってた。

『二見さんも、りーちゃんの事かわいいって。』

ぬいぐるみを、そっとつつく。

「…あれ」

目の前のぬいぐるみの輪郭がぼやけて、なんだろうと目をこする。手の甲に、ふと塗れた感触がしてそこではじめて、紫音は自分が涙を流していることに気がついた。

「…なんでかな。どうしちゃったのかな」

くしくしと目をこすり、涙を拭ってぬいぐるみをぎゅっと胸に抱き寄せる。

「はるみせんぱい…」

自分に微笑みかける晴海を思い出し、じくじくと痛む胸をごまかすようにぬいぐるみを強く抱きしめながら、紫音はゆっくりと意識を手放した。

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