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「…!う、うん。」

その、心底嬉しそうに笑う紫音に、晴海は胸がぎゅっと締め付けられた。

いつものように、二人で今日の出来事などを話しながら笑いあう。ただ、いつもと違うのは、紫音はその間中子猫と一緒に晴海のあげた小さなぬいぐるみを抱いていたことだ。
その姿に、晴海は何ともいえない幸福感に包まれた。

「先輩、今日ありがとう。」
「え?」
「グリーンピース。取ってくれたでしょ?俺ね、グリーンピースだけどうしても食べれないの。だから今日、どうしようってすごく困ってたら、先輩が取ってくれたから。」
「い、いや、俺が好きで食べたかっただけだし!別に紫音ちゃんのためじゃ…」

突如、あの時の話をされて必死になって言い訳をしてしまう。まさか、紫音が苦手なのに気付いて取っただなんて絶対に知られたくない。

「うん、わかってる。でも、俺はそれですごく助かったから。ありがとう、先輩。」

そう言って笑う紫音に、また胸がズキリと痛む。知られたくないはずなのに、そうだと言ってしまいたい。自分は、一体どうしたいのだろうか。
自分の気持ちにもやもやとしたいらだちを感じながら軽く返事をする。

「二見さん、だっけ。あの人にはバレちゃったみたいだけど。」
「は?」

ふいに紫音の口から出た名前に素っ頓狂な声が出た。
バレた?なにが?

「俺がグリーンピースが苦手なの、気付かれてたみたい。帰りにね、『次はグリーンピースの入ってないおいしいご飯作ったげる』って言ってくれたの。」

――――あの時、耳打ちしてたのはそれか!

「二見さん、優しいね。」

…まただ。

ふわりと笑い、二見の事を褒めた紫音に、晴海は紫音を知ってからここ最近よく感じるようになった苛立ちがまた湧き上がるのを感じた。あの時。帰りに、紫音に耳打ちして、頭を撫でたのを見て何だかとても腹立たしく思った。気が付けば、紫音を呼び捨てにして自分の方へ早く来いと促していた。そして、今。

二見は、確かに優しい。どうしようもない自分たちに礼儀をきちんと教えてくれて。いつだって俺たちの事を考えて困ったことがあればそっと手を貸してくれる。自分にとっても兄貴のような存在で、憧れている人…なのに。

「…二見さんは、誰にでも優しいから、ね…。特別、紫音ちゃんだけってわけじゃ、ない、し。と、特に、梨音ちゃんの事、気に入ってたみたいだね。かわいいかわいいってずっと言ってたしさ。二見さん、梨音ちゃんみたいな子、タイプなのかも。…紫音ちゃんとは、真逆だね」
「…そっか。そうなんだ…。」

紫音の方は、見れなかった。自分で自分が何を言っているのか。

「誰にでも優しいって、すごいよね!さすが、晴海先輩の先輩だね!だから晴海先輩も優しいんだね!」

自分の言葉に、偽りのない言葉を返す紫音に、晴海は目を見開いて顔を上げた。

「…優しい…?俺が…?」
「うん、先輩は優しいよ。俺、先輩大好きだもん。」

…俺を、好き…!?

「…っ!!」

紫音の言葉を頭の中で繰り返す。その途端、晴海は自分の顔に熱が集まるのを感じ思わず口を押えた。
やばい。今の俺、絶対顔赤い…!

「…先輩?」

晴海の行動に首を傾げた紫音を見て、晴海はますます顔を赤くする。

―――――――バレる!

紫音が心配そうに顔を覗き込もうとしたその前に、晴海は慌ててがばりと立ち上がった。

「ご、ごめん、紫音ちゃん!今日は帰る!」
「あ、う、うん。お休みなさい。」

挨拶もそこそこに、立ち上がった晴海はそのまま逃げるように中庭から駆け出す。ちらり、と紫音を振り返ると、自分の上げたぬいぐるみを大事そうに胸に抱きながら小さく手を振る紫音が見えた。

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