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晴海の自覚

梨音はにこにこと笑いながら丁寧にぬいぐるみを並べていた。紫音が横で袋から一つづつ取り出し、軽く形を整えて梨音に渡していく。

「すごいねえ。二人とも上手だねえ」

二人が並べているのは、昼間に克也と晴海が取ったぬいぐるみだ。二人で部屋に戻って寝る準備をしてから、並べるのを手伝ってほしいと言われ紫音は梨音の部屋でぬいぐるみを並べるのを手伝っていた。
大きいのやら、小さいのやら。全部で30個以上はあるだろうか。なんとか全部並べ終えたそのぬいぐるみたちを見て、二人で顔を見合わせて笑う。

「ほんとにいーの?しーちゃん。」
「うん。だってこれは先輩たちがりーちゃんの為にって頑張って取ってくれたものなのに、勝手に俺がもらうわけにいかないよ。」

梨音は、紫音がぬいぐるみが大好きなのを知っているためもらったぬいぐるみを二人で分けようと提案した。それを紫音は笑顔で辞退する。

「それにね、りーちゃん。俺の部屋に置いておかなくても、りーちゃんのお部屋にあるから触ろうと思えばいつでも触れるし抱っこだってさせてくれるでしょ?だからいいんだ」
「そっか。」

紫音の偽りない笑顔を見て梨音はありがたく全てのぬいぐるみを自分の部屋に飾らせてもらった。

ぬいぐるみを受け取った際、梨音も紫音もお金を払おうとしたのだが二人に断られてしまった。がんとして受け取ってくれないので、お礼を言うと『また遊びに一緒に行ってくれ』と言われた。

「あれ?りーちゃん、いっこ並べてないよ。この子はいいの?」

ふと紫音が、床に置かれている大きなぬいぐるみを指さした。

「う、うん。その子はね、ベッドの上に置こうと思って。」
「ふうん。大きいもんね、置けないもんね。じゃあ俺、袋片付けてくるね。」

そう言って紫音が部屋を出てから、梨音は床に置いたそのぬいぐるみを抱き上げて正面からじっと見る。それは、今日一番最初に克也が取ってくれたあの大きなウサギのぬいぐるみ。

実は帰り際に梨音は克也にそっと耳打ちされていた。

『あのぬいぐるみを俺だと思えよ?…なんてな』

にやりと不敵に笑い、頭をくしゃりと撫でられて梨音は真っ赤になってしまった。

「…君の名前はかっちゃんです」

うさぎのぬいぐるみに、名前を付けて呼ぶと急に恥ずかしくなって一人部屋の中で真っ赤になってぎゅうぎゅうぬいぐるみを抱きしめた。
今日は、本当に楽しかった。

紫音が部屋に戻ってくると、二人は今日の話をしながら、ベッドに並んで横になった。

「うう、きもちわりい…」

晴海はお腹をさすりながら中庭で一人しゃがみ込んでいた。二見の店に行ったあの時。エビピラフを見た紫音の顔を見た瞬間、晴海は、あ、と思った。

…紫音ちゃん、グリーンピース苦手なんだ。

無表情に見えるが、晴海には泣きそうになっているのがよくわかった。自分と同じものが苦手なんだというほのかな嬉しさと同時に、助けてあげなくちゃ、と思った。そう考えた時には、晴海は自分のスプーンで紫音の皿からグリーンピースを全て取っていた。

二見さん、絶対なんか思った。くそう、失敗した。

晴海がグリーンピースが苦手なのは二見が一番よく知っている。その自分が、嘘をついてまで人の皿から苦手であるはずの食べ物を取ったのだ。
別に、嘘などつかなくてもよかった。嫌いなんだ、といいながら自分も避けて紫音にも避けさせればいいだけの話だが、晴海は紫音にそれが苦手だとバレたくなかった。…つまりは、格好をつけたかったのだ。

「…俺って、バカ…」

しゃがみ込みながら、その膝に顔を埋める。なんだろうか。紫音のことになると最近全く計算がうまく行かない。参謀長が聞いてあきれる。

「…先輩?」
「あ…」

中庭に現れた紫音が、しゃがみ込む晴海を見つけ心配そうに声をかけてきた。

「どしたの?しんどいの?」
「いや、違うよ。ちょっと考え事してただけだよ。心配した?ごめんね」

晴海の答えにひどくほっとしたような笑顔を見せる紫音に、晴海も笑顔を返す。いつものように紫音が小さく呼びかけると、子猫が奥から現れた。

紫音の姿を見つけ、その足元にゴロゴロとすりよる子猫を晴海は『こいつ、俺にはこないくせに紫音ちゃんには甘えやがって…』と若干苦々しく見つめた。

「先輩、今日はありがとう。りーちゃん、すごく喜んでたよ。お部屋がねえ、うさぎさんでいっぱいになったの。」
「へえ、そっかあ。よかった、喜んでくれて。…紫音ちゃんは、うさぎのぬいぐるみ好き?」
「んー、嫌いじゃないけど、俺はにゃんこちゃんの方が好きなんだ。あのね、りーちゃんはうさぎさんを集めてるけど俺はにゃんこちゃんのぬいぐるみを集めてるの」

ネコのぬいぐるみを部屋いっぱいに飾り、あの着ぐるみを着ながらぬいぐるみで遊ぶ紫音を想像して晴海は思わず口元を緩めてしまった。

「…あの、さ、紫音ちゃん」
「なに?」

晴海はもごもごと何か口を濁し、やがて意を決したように小さな袋を紫音に差し出した。

「…あげるよ」

差し出された袋を不思議そうに受け取り、袋口をあける。

「あ…」

そこから現れたのは、手のひらサイズのネコのぬいぐるみだった。

「や、梨音ちゃんにあげるうさぎを取ってたら、間違ってそれ取っちゃって。紫音ちゃんネコ好きだって言ってたし、ならどうかなって…、い、いらなかったら、全然捨ててくれても構わないよ」

自分でも笑ってしまうほどの情けない言い訳に、晴海は内心頭を抱えた。
ああ、俺のバカ!もっとスマートな言い方できないの!?

だが、晴海の言い訳など気にもしていないのか、紫音はじっとぬいぐるみを見た後、それをぎゅっと胸に抱きしめた。

「…嬉しい。すごく、嬉しい。ありがとう先輩。大事にするね。」

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