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11

紫音がひとさじ掬おうとした時、突然横からぬっとスプーンが現れた。

「紫音ちゃん、俺グリーンピース大好きなんだよね!ちょうだい!」
「あ…」

それは晴海のスプーンで、晴海は紫音の返事を待たずに紫音の皿からきれいにグリーンピースだけを取り、自分の皿に入れた。

「おい、晴海…」
「あ、二見さん、そういえばさあ…」

それを見ていた二見が何かを言おうとする前に、晴海が話題を振って話を逸らす。紫音はグリーンピースのなくなった皿を見つめ、晴海をちらりと見てからエビピラフを食べだした。



「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさまでした」

皆食事を終え、梨音と紫音がきちんと挨拶をすると二見はにこりと微笑んだ。

「えらいな、きちんと挨拶できて。うちに来るバカどもに見せてやりてえよ」
「ひでえ、二見さん!俺らだってちゃんとごちそうさま言ってんじゃん!」
「ばっかやろ。梨音ちゃんみてえなかわいいごちそうさまなんざ聞いたことねえっつの、いっつもチンピラみたいな挨拶ばっかするくせによ」

そう言いながら梨音の頭をよしよしと撫でる二見に、梨音は顔を赤くして俯く。それを見た克也があからさまに不機嫌になるのを見て二見は内心笑いをこらえるのに必死だった。

「っとに、まるっきりガキだな、てめえは。」
「…うるせえっすよ」

しょうがない奴だな、と笑いながら食器を厨房に運ぶ。次は晴海たちの皿を、とカウンターに向かうとと紫音がきれいに皿を重ねて持ち上げて二見に渡した。
ちょっと驚いたように目を見開いてから、皿を片手で受け取った二見が紫音に向かってにこりと微笑んだ。

「ありがとな。お前、不愛想に見えるけどいい子じゃねえか」

そう言って紫音の頭を撫でると、今度は紫音が驚いたように目を見開いて、それから

「あ、りがと…、ござい、ます…」

小さな小さな声で、ほんのり顔を赤くしながら俯いてつぶやく。それを見た二見はぴたりと動きを止めてしまった。そして、無言で紫音をじっと見つめる。
紫音はなぜ自分がそんなにみられているのかわからなくてきょと、と視線を泳がせた。

…なんで、じっと見てるの?あ、俺、もしかして顔にご飯粒ついてるのかなあ?

不安に思い、そっと自分の頬を撫でる。

「…おま…」
「あ〜っと!やっべえ!もうこんな時間だ!外出許可の門限に間に合わなくなっちまう!なあ克也、急ごうぜ!」

二見が紫音に声を掛けようとする前に、一部始終を見ていた晴海が突然大声を出した。

「あ、ああ、そうだな。もう帰らないと。二見さん、悪い。ごちっす。また来ますんで」
「お、おう。」

晴海に言われ、時計を確認した克也が梨音の手を引き席を立つ。紫音も晴海に手を引かれ、カウンターの椅子から立ち上がり出口へと向かった。


「ありがとうございました、ごちそうさまでした。」
「ああ、またおいで。」

梨音がぺこりと頭を下げると、二見は梨音に笑顔を返し頭を撫でた。
克也が慌てて梨音の手を引いて、二見から引きはがす。急に手を引かれた梨音は訳が分からずきょとんと克也を見上げ、首を傾げていた。

まじおもしれえな、克也の奴。

二見はにやにやしながら克也を見、克也はばつが悪そうに顔を逸らして舌打ちした。
中に入るかと思いきや、二見は今度は紫音の前にやってきた。にこにこと人のよさそうな笑みを浮かべる二見に、同じように微笑み返しそうになって必死に無表情を貫く。

「…紫音ちゃん、だっけ。またおいで。今度はグリーンピース抜きのおいしいご飯作ってあげるからね。」
「…!」

耳元でそっと囁き、にこりと微笑んで二見は驚いて目を見開く紫音の頭を撫でた。

「っ!し、紫音!行くぞ!!」
「えっ?あ、は、はい。…ありがとうございました。」

晴海に突然呼び捨てにされ、驚いたものの慌てて二見に頭を下げる。晴海は紫音の手を引き、足早に店を後にする。引きずられながら二見の方を振り返ると、二見は紫音に向かい手を振っていた。


4人の姿が見えなくなってから、二見はその顔に笑みが浮かぶのを止められなかった。


「…ばっかだな、晴海。」


晴海も、実はグリーンピースが苦手なのだ。二見はそれを知っていて、親心からいつもわざと抜かずにいるのだが晴海は嫌そうにぶーぶー文句を言いながら食べる。その、晴海が。

「…紫音ちゃん、ねえ」


二見は、晴海がグリーンピースを取った後の、無表情に見えた紫音の微々たる表情の変化を見破った。それから気付かれずに、二見は紫音を観察していた。よくよく見ると、端々に見た目とは違う表情が見え隠れする。自分がいい子だ、と褒めた時のあの時の紫音は、二見の目に言い難いほどかわいらしく映った。

「おもしれえな、あいつら」


くく、っと笑いをこぼし、二見は店の扉をくぐった。



end



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