×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




10

「二見さ〜ん、やっほ〜!」

からん、と『close』の札のかかる店の扉を晴海が開け、中に入る。梨音と紫音は閉まっているのにいいのだろうか、とドキドキして立ち止まる。そんな二人を晴海は入り口の横に立ち、中に入るように促す。二人が遠慮がちに中に進み、最後に克也が入ると、晴海は店の扉を閉めて鍵を閉めた。

「おいおい、珍しいな?チームの奴じゃ無い奴を連れてくるなんて」

奥から現れた二見が梨音と紫音を見て目を丸くする。

「うん、学校のお友達なんだよ、ね?木村梨音ちゃんに、紫音ちゃん。かっわいいでしょ〜?」
「こ、こんにちは、はじめまして、木村梨音です。」
「…紫音です」

晴海に紹介され、二人が二見に挨拶をすると二見はへえ、と興味津々な顔を向けてきた。

「こりゃかわいらしいお友達だなあ?初めまして、俺は二見幸則、この店のオーナーだ。こいつらバカどもの面倒も見てる、よろしくな?」

にこりと微笑んで挨拶をすると、バカどもってひでえ!と晴海が笑いながら抗議した。

「あ、俺ボックスじゃなくてカウンターに座りたい気分なんだよね。梨音ちゃん、克也は痔だからソファじゃないと無理なんだよ。ひとりぼっちじゃかわいそうだから一緒に向こうに座ってやってくんない?」
「てめえ!」
「…先輩、先輩」

誰が痔だ、誰が!と食ってかかろうとした克也の腕を梨音がくいくいと引っ張った。克也は怒りの形相を慌てて消し、梨音に振り返る。

「どうした?」
「…先輩、おしり、いたいの?大丈夫?僕、先輩のお世話するよ。」

耳元で囁く梨音に克也は真っ赤になって思わず首を縦に振った。
ぜひ下半身のお世話をお願いします、などと不埒なことを考えてどこかに飛んでいる克也の手を引っ張り、梨音はカウンター近くのボックス席に向かった。

「紫音ちゃんはこっちね。俺ひとりぼっちじゃかわいそうでしょ?」

晴海ににこりと微笑みながら手を引かれ、カウンターの席に並んで座る。ボックス席に水を運んだ二見がカウンターに戻ってきて、にやにやと笑いながら晴海と紫音に水を出した。

「なんだありゃ。鬼神が借りてきた猫みたいになっちまってるじゃねえか。」
「へへ、おもしろいでしょ。」

二見は奥に座る克也と梨音を見て、その顔の笑みを深くする。そうか。あれが最近の克也の様子の大元か。なるほどな、ありゃ手ごわそうだ。

「あっちは注文聞いてきたぞ。お前らは何か食うのか?」
「俺、エビピラフ!紫音ちゃん、何が食べたい?二見さんのエビピラフ、超上手いよ。」
「…じゃあ、それで…」

何がいい、と聞かれてもまさか『オムライスが食べたいです』とは言えず、晴海の案に従う。
…お子ちゃまだって、ばれちゃだめだもんね。えびさんもおいしいから好きだし。
紫音は出された水を口にして、ちらりと梨音の方を見た。梨音は克也ととても楽しそうに話している。それに紫音は少しのさみしさを感じた。

りーちゃん、とっても楽しそう。…いいな、滝内先輩と仲良くお話できて…。

晴海以外の人間が近くにいる限り、紫音は晴海といつものように話すことはできない。

夜は、自分も晴海とたくさんお話しできるのにな。

「…紫音ちゃん?どうかした?」
「…!な、んでもない。気にしないでくれ…」

どこかしゅんと元気のない声で返事をした紫音に晴海が声を掛けようとしたとき、二見から『できたぞ』と目の前にピラフが置かれた。

「うっわ!うまそー!いっただっきまーす!」
「…い、ただき、ます…」

スプーンで目の前のピラフにかぶりつく晴海とは反対に、いただきますといったものの紫音がそれを口に運ぶことはない。それに気づいた二見が紫音に声を掛けた。

「どうした?食わねえのか?」
「…!い、いえ。」

ゆっくりと、紫音がスプーンを手にしてピラフをじっと見つめる。
おいしそうなアツアツのピラフに混じる、緑の小さな丸い粒。



…どうしよう。グリーンピースが入ってるよぅ…



紫音はどうしても、グリーンピースだけが食べられないのだ。だが、閉まっているところに無理やり入って、わざわざ作ってくれたのにそれを避けるだなんて失礼な事できるわけがない。紫音は顔こそ無表情なものの、内心泣きそうになっていた。


…りーちゃんなら、何も言わずにグリーンピースだけ取ってくれるのになぁ…


だが、その頼みの綱の梨音は離れたところで食事をしている。紫音は覚悟を決めて、スプーンをピラフにつけた。

[ 215/283 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
トップへ戻る