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9

突然飛び退いた晴海に、紫音も驚いたように目を丸くして固まる。

「…先輩?」

軽く、首を傾げるその仕草に、自分を見る眼差しに、ひどく心が乱される。

「や、何でもないよ。ごめん、ちょっと考え事してたからびっくりしただけだから」
「…そう」

真っ直ぐに見ることなんてできなくて、顔を逸らしながら話していたからその時に紫音がどんな顔をしていたかだなんて晴海には気付くことなどできなかった。

「見て見て、しーちゃん!」

無言で並び立つ二人の元に、梨音がその手に大きなうさぎのぬいぐるみを抱きながら駆け寄ってきた。そのすぐ後ろから、克也が得意げにやってくる。

「先輩が取ってくれたの!すごいよね、すごいよね!」
「よかったな、梨音」

満面の笑みを浮かべそれはそれは嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる梨音に紫音も笑みがこぼれる。

「えへへ、うさぎさん大好きぃ。先輩、ありがとー!」

ぎゅう、と抱きしめ頬ずりする梨音の頭を克也が笑顔を浮かべながら撫でる。

…なんか、甘いんですけど。

目の前で無意識にいちゃつく奴らにムカついて、晴海が無言ですぐ後ろの台にコインを入れる。そして軽く操作したかと思うと、あっという間に手のひらサイズのうさぎのぬいぐるみが取り出し口に落とされた。

「はい、梨音ちゃん。俺もあげる〜」
「えっ、いいの?うわぁ、嬉しいです!秋田先輩、ありがとー!」

それを見た克也はあからさまに面白くないと言う顔をした。
なんだってんだ!なんで晴海まで梨音にぬいぐるみをやるんだ!

「…はっ、それくらいいくらでも取ってやる。見てろ、梨音」
「俺だっていっぱい取れるもんね〜!ね、梨音ちゃん、待っててね。克也なんかよりかわいいのたぁくさん取ったげるよ」
「俺と勝負するつもりか!上等だ、ほえ面かくなよ!」

そう言って正面からにらみ合ったかと思うとそれぞれが思い思いの台に駆けていく。突如始まってしまった二人の勝負に、梨音と紫音は唖然として次々落とされるぬいぐるみを見ていたのだった。



「うう〜、いっぱいすぎて重いよう…」

しばらくして、梨音の手の中には抱えきれないほどの大小のぬいぐるみが渡されていた。二人が取ったぬいぐるみはじつにゲームセンターの店員がくれた大きなビニール袋に三つにもなった。うんうん言いながら袋を持ち上げようとする梨音から、紫音がひょいと取り上げ軽く肩から下げる。

「えへ、ありがと、しーちゃん!」
「…おい、弟。俺が持つから貸しやがれ」

荷物を持った紫音に克也が憮然としながら手を伸ばす。それに紫音は首を振った。

「…いい。梨音の荷物は俺が持つ。」

まるで二人の事に割って入るなとでもいうような紫音の拒絶に克也は苛立ちを感じた。

「おい、何だってんだてめえ。俺が持つっつってんだろうが」
「かまわない」

触るな、とでもいうように手上げて克也を制止する。克也の顔が変わるのを感じた晴海が二人の間に割って入った。


「あ〜、っと、ねね、梨音ちゃんに紫音ちゃん。お腹すかない?ちょっと早いけどご飯食べに行こうか。ね、克也。二見さんとこならこの時間でも開けてくれるよね。人いない方がいいだろ?いかない?」

時刻は午後4時。腕時計をちらりと見た克也はそうだな、とくるりと踵を返した。それを見て晴海はほっとする。よかった。克也、意外と短気だからな…。

「じゃあ行こうか。俺たちの行きつけの店でね、すっごくおいしいよ。」

にこりと微笑む晴海に、梨音は満面の笑顔で、紫音は無言で頷いた。

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