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4

梨音が紫音の方を見ると、紫音は眉間にしわを寄せ克也を睨んでいた。

「…二人で出かける事は、許さない。梨音。行きたいなら俺とだ」
「で、でも…」
「梨音」

有無を言わさない紫音の言葉に、梨音はそれ以上何も言えなくてぐっと黙り込む。それを見た克也が紫音に声を掛けた。

「おい、弟。何が気に入らねえんだ。俺が梨音に何かするとでも言いてえのか」
「…俺はただ梨音を守りたいだけだ。別にあんたがどうと言うことじゃない。あんたに限らず、外には危険が多い。二人でなんて許可できない」

紫音は克也から視線をそらさずにきっぱりとそう言う。その言葉を聞いて克也は苛立ちを感じた。梨音を守りたいだと?それは俺だって同じだ。

「俺じゃ梨音を守れないとでも言いてえのか?俺を誰だと思ってんだてめえ。」

克也が紫音を睨む。それを見た晴海は焦った。克也は紫音の本性を知らない。晴海には演技だとわかっているこの態度も、克也にとっては自分に喧嘩を売っているようなものだろう。

克也も紫音も、お互いにらみ合ったまま決して視線を逸らさない。まさに一触即発、とその時に晴海がまあまあ、と間に入った。

「じゃあさ、みんなでいかない?ね?俺と、紫音ちゃんと、梨音ちゃんと克也。ね?紫音ちゃんもさ、一人より二人。二人より三人。梨音ちゃんを守れる人間は多い方がよくない?ね?梨音ちゃん、どう?」
「は、はい!僕、皆さんとお出かけしたいです!」

先ほどまで二人の間に入りおろおろとしていた梨音も、晴海の提案に必死になって頷いた。紫音と克也はにらみ合っていた視線を晴海に移し、克也はふう、とため息をついた。

「…そうだな。それならてめえも心配ねえだろ、お兄ちゃん大好きな紫音くんよ?」
「…しーちゃん…、だめ…?」

厭味ったらしく吐き捨てた克也の言葉と、首を傾げ眉を下げてお願いする梨音に紫音は仕方がない、と承諾した。途端に梨音に満面の笑みが浮かぶ。

「うわあい!僕、みんなでお出かけなんて初めて!」

よかった。とりあえず激突は避けられた。ほっとする晴海に、克也がそっと近づく。

「お前、なんであのくそ生意気な弟の事紫音ちゃんなんて呼んでんだ。梨音と同じくまさかかわいいとでもおもってんじゃねえだろうな?趣味変わったのかよ」
「え〜?あ、うん。からかってるだけだよ。俺があんなごつい不愛想なの、かわいいなんて思うはずないじゃん。」

恐らくは克也の冗談であろうその言葉に、内心ひどくどきりとしながら言ったその言葉をどうか聞こえていませんように、と思った。



「紫音ちゃん」
「あ、先輩。こんばんは。」

その日、いつものように密会へ向かうと紫音はいつもと変わりなく挨拶をしてくれた。にこりと微笑んで紫音の隣にしゃがみ込む。

「紫音ちゃん、ありがとうね。お出かけ、許してくれて。」

晴海が言うと、紫音は何故かしゅんと俯いた。あれ?どうしたんだ?
いつもと少し違うその様子に、晴海が俯く顔を覗き込んでどうしたの、と声を掛ける。

「…先輩、ごめんなさい。滝内先輩、怒ってた?」

―――――ああ、あれかあ。

恐らく紫音は、昼間自分が言ったことで克也を怒らせてしまったのではないかと心配しているのだろう。

「ん〜、いや、別に怒ってはいなかったよ。…ね、紫音ちゃん。やっぱりまだ克也と梨音ちゃんを二人っきりにするのはいや?信用できない?」

晴海の言葉に紫音は俯いていた顔を上げると大きく首を横に振った。

「ち、ちがうの!滝内先輩が嫌とかじゃないよ!だって、りーちゃん、滝内先輩の事、いい人だって。大好きっていつも言ってるもん!」

その言葉をぜひ克也に聞かせてやりたい。恐らく梨音の好きは、そういう意味ではないだろうけどそれを聞いて克也がどんな反応をするのか見たくなった。
一瞬浮かんだいたずら心を押し込めて、紫音の話を聞こうとじっと見つめる。

「…俺が…。俺が、ただ、心配なだけで…。だって…。だって…、りーちゃんは、ずっと俺が守ってきたんだもん…。」

泣きそうに顔を歪めて、小さくそう言う紫音の頭を晴海は優しく撫でた。

「…紫音ちゃんは優しいね。そっか。梨音ちゃんの事、大好きなんだもんね。じゃあさ、今度のお出かけ、みんなで梨音ちゃんを守らなきゃね。」

晴海は、泣きそうな紫音に『一人でやらなくても』とは言えなかった。何故か、それを言ってはいけない気がしたのだ。
紫音の言葉を否定するでもなく、ただ「えらいえらい」と頭を撫でてくれる晴海に、紫音はぽろぽろと知らず涙をこぼしていた。

晴海は、目の前で涙を流す紫音を見てまた胸が締め付けられた。

「せんぱ…?…っ!?」

晴海は両手で涙を流す紫音を頬を挟むと、涙の流れるその頬にそっと唇を寄せていた。
晴海の行動に驚いた紫音が、抱いていた子猫を抱く手にぎゅっと力を入れる。『にゃあ!』と泣き声を上げた子猫の声に、ハッと晴海は我に返った。


い、今、俺、なにした…!?


ぐるぐると何か言い訳を、と必死に頭を動かすも何も思い浮かばない。すると紫音が真っ赤な顔をしながらにこりと微笑んだ。

「あ、ありがと、先輩。ごめんね、急に泣いたりしちゃって。もう大丈夫だよ。先輩のおまじないのおかげで、涙止まっちゃった。」


おまじない…?


「お父さんとお母さんがね、俺たちが泣くといっつも『涙の止まるおまじないだよ』ってほっぺにちゅうしてくれるの。先輩も知ってたんだね。びっくりしちゃった。」


…お父さん、お母さん。あんたらどんな子育てしたんだ…。


「…うん。よかったよ、涙、止まったね。」

だが、晴海はそんな育て方をしてくれたまだ見ぬ紫音の両親に感謝した。



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