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6

自室につくと早速克也にメールを送る。

『お宝ゲット〜、猿化に注意』

とタイトルをして送付したそれに、克也は返信をしてこなかった。
きっとトイレにこもったに違いない。晴海は一人想像して笑った。克也にメールを送信してから、カチカチと画像フォルダを検索する。


カチ、


一枚の画像で指を止め、それを画面いっぱいに拡大した。



「…かっわい」



なんなの、顔の横で猫の手とかどんだけなの。


そこには、梨音と紫音の並んで猫まねをする写真。

梨音ちゃんはほんとにかわいいね。猫ちゃんかいぐりしたくなるね。

晴海は一人脳内でわざと『梨音ちゃんはかわいい』と反芻する。
だが、そっと画面に触れる指は知らず紫音をなぞっていた。


『一緒にたくさん撮ったんだよ』


それを聞いた時に、晴海の頭の中に浮かんだのはただひとつ。

紫音ちゃんも、着ぐるみ着たんだろうか。

どうしてもそれを見たくなって、でも口に出すのは何故かできなくて、咄嗟に出た手段が『自分で探す』だった。
案の定、紫音は疑いもせずに簡単に携帯を渡してくれた。検索すると見事に梨音の写真ばっかりだったが、唯一これだけがフォルダに入っていた。この画像を見つけた瞬間の自分の胸の内はもう日本三大祭りの打ち上げ花火状態だった。

―――どうしても、欲しい。

そうだ、克也に梨音ちゃんのこの写メをあげたらきっとめっちゃ喜ぶし。克也を理由に画像をもらう。そして、さりげなく、個人情報までゲットしてしまった。
赤外線がうまくいかないだなんて本当は嘘だ。


…梨音の携帯には、もしかして紫音の画像が入っていないだろうか。
そう考えて頭を振る。


いやいや、俺がこれを欲しかったのは梨音ちゃんの猫の手がかわいかったからだし。紫音ちゃんはおまけだし。誰が見ても、梨音ちゃんの方がかわいいし!


梨音ちゃん、梨音ちゃんといいわけがましく悩む自分を、どこかで鼻で笑っているもう一人の自分がいる。


じゃあなんでこの二人並んだ画像は克也にあげないの。帰りにどうやって約束を取り付けたか聞かれたときに、なんで克也に言わなかったの。


克也は梨音ちゃんにしか興味はないんだから、紫音ちゃんの写真も実はお子ちゃまだって情報も別にいらないでしょ。


画像をもらうときに、赤外線がうまくいかないだなんていってなんでメアドをゲットしたの。


…克也の為に梨音ちゃんを呼び出すときに、メアド知ってた方が都合がいいじゃん。直接話をしなくてもメールでこちらから何かあったら指示できるし。


矛盾する二つの心で何度も何度も質問と答えを繰り返しながら、画像を保護フォルダに入れた。



『かわいい子は好きだよ』


あれは、どちらに向けて放った言葉だったのか。

「…俺、一体どうしちゃったんだ…」

ベッドに転がり、枕を抱きしめ目を閉じる。考えすぎて頭が痛い。今はもうとにかく眠ろう。
うとうととまどろむ中、瞼の裏に紫音がよぎる。


『先輩、また明日ね。』

先ほど笑顔で手を振ってくれた紫音を思い出す。どこか明日のお昼を楽しみにしながら、晴海は眠りに落ちていった。


end

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