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ごろごろと、甘えた声を出して子猫が紫音の膝に抱かれている。
「…紫音ちゃん、今日はありがとうね。」
「…?」
ふいに呟かれた礼に、紫音はきょとんとして晴海を見上げた。
「克也さ、梨音ちゃんと仲直りできたって。紫音ちゃんが約束通り来てくれたおかげだよ。ありがと…。」
「ううん、約束を守ってくれたのは先輩だよ。今日お部屋に帰ったらね、りーちゃん、お昼楽しかったって。克也先輩とお友達になれたって、喜んでたよ。ありがとうね。約束通り、りーちゃん嫌がることなんてしなかった。俺のことも、内緒にしてくれた。ありがとう、先輩。」
ふにゃり、と笑われて晴海は次に言おうとした言葉を飲み込んでしまった。本当は、こんな素直な子を脅しているという状況が嫌で『もういいよ』と言うつもりだった。
とりあえず、克也は梨音と警戒のないお友達という距離まで詰めれたのだ。あとは、克也次第。そう思っていたのに。
「…また明日、来てくれる?ま、来なかったら、秘密バラしちゃうけど」
口からでたのは、昨日と同じ脅しを利用した強制だった。
「…うん、行きます。」
口にしながら、晴海は紫音の顔を見れなかった。紫音の方から、少し悲しそうに呟かれた返事に何故か晴海は泣きそうになった。
「そ、そう言えばさ。梨音ちゃんて、お料理上手なんだねえ。びっくりしちゃった。」
少し気まずくなった空気を変えようと、晴海がお弁当の話を振った。すると、紫音はきらきらと顔を輝かせ嬉しそうに晴海をみた。
「うん!あのね、あのね!りーちゃんは凄いんだよ!ハンバーグがすごく得意でね、俺のやつ、いっつもハートとかお星様の形にしてくれるんだあ。お菓子を作るのも得意でね…」
とてもとても嬉しそうに、梨音の話をする紫音に晴海も笑いながら相づちを打つ。紫音は、お昼に言いたかったことを必死に話し続けた。
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