3
晴海はたばこを吸いながら一人ふらふらと歩く。時計を何気なく見て、時刻を確認する。
午前0時。
いい子ちゃんの多いこの学校では消灯を過ぎて出歩く者はほとんどいない。いるとすれば大概が自分のチームの誰かだ。
だが、それでも晴海は気配を殺し、誰にも見つからないように細心の注意を払って歩いていた。
目的地へつく前に吸っていたタバコを携帯灰皿で消す。においを消すタブレットを一つ噛んで、さらに体についたタバコの匂いを少しでも消そうと携帯している香水を軽く振った。
…なにやってんの、俺。
そこまで相手になんで気を使うことがあるのか。タバコの匂いがして嫌がられようが構わないのに。
自分の行動を自分で笑いながら寮の中庭の奥深くへと入っていく。
…いた。
「しーおんちゃん」
「ひっ!」
草むらにしゃがみ込んでいる後ろ姿にそっと近づき、耳元で囁いてやると驚いて体を跳ねさせ、目を見開いてこちらを振り向いた。
「あはは、びっくりした?ごめんねぇ」
「せ、先輩、ひどいよぅ!お化けかと思ってびっくりしちゃった」
うるうると涙を浮かべる紫音を見てけらけらと笑う。そんな晴海に紫音もつられてくすくすと笑った。
「先輩、どうしたの?こんな遅くまでお勉強?」
お勉強って…
夜遊びとか、そういうことは思いつかないんだろうか。相変わらずかわいらしい発想だな、と頬が知らずに緩む。
「ううん、外のお友達に会いに行ってたんだよ〜」
「そうなんだ!先輩、お友達沢山なんだね!」
にこにこと笑う紫音に晴海もつられて笑顔になった。
「紫音ちゃんは?お外にお友達いる?」
「うん!えっとね、一年生の時には沢山いたよ。たーくんでしょ、それからいっくんにじゅんくん…」
指折りお友達を数えて名前を挙げていく。
晴海は何故か紫音から名前が挙げられる度にイラっとした。
だが、ふと違和感を感じる。
「…一年生、だけ?」
晴海が尋ねると、紫音はちょっと悲しそうに笑った。
その笑顔にピンとくる。
昨日教室に紫音を呼びに行ったときも、梨音は友達に囲まれていたが紫音は一人で読書をしていた。
つまり…何があったか知らないけれど、きっと一年生以降から紫音は梨音を守りだしたに違いない。その時から梨音を守るために自分を偽り一切を遮断したのだろう。
小学生が今のような冷たい態度を取ったなら、敬遠されて友達なんていなくなるだろう。
「今は、俺も紫音ちゃんのお友達だねぇ。」
「…!は、はい!」
そう言うと満面の笑顔で頷く紫音に、思わず手が伸びそうになった。
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