×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




5

「さってと!コーヒー飲みたいな〜!克也と梨音ちゃんもいるでしょ?紫音ちゃん、ごめんだけどついてきてくれない?」


食事を終えた後、晴海が伸びをして紫音に声を掛けた。顔を上げて晴海を見るとぱちんとウインクされた。

あ、そうか。

「梨音、手伝いに行ってくるから。すぐ戻るから、滝内先輩と待っててくれ」
「えっ?う、うん…」

立ち上がった紫音に不安な目を向けるも、こくりと頷いて梨音はいってらっしゃいと手を振った。

晴海について屋上の扉付近まで来ると、晴海は紫音の手を取り、しー、と人差し指を口に当て手を引きながら裏に回り、角からこっそり覗けと指をさした。
晴海に従いそっと壁から覗き込むと、ちょうど梨音と克也が少し離れたところに座っているのが見えた。

「完全に二人にするのはまだ怖いでしょ?ここなら二人の様子が見れるよ」

振り返って晴海を見ると、晴海はにこにこと微笑んでいた。

「俺たちが一緒にいると克也が梨音ちゃんに謝れないからさ。俺が送った合図に気付いてついてきてくれたんだよね?昨日言ったことが本当だって紫音ちゃんにもわかってほしいからさ、ここで二人の事見てよっか。」
「せんぱい…」

紫音はキラキラとした目で晴海を見つめた。そのまなざしに、晴海は思わずうっと息が詰まってしまった。紫音はそんな晴海にお構いなしに、晴海の手を取ってぎゅうと握りしめた。

「なっ、、えっ!?」
「せんぱい、ありがとう。せんぱいのこと、俺、昨日ちょっとだけ疑っちゃった。ごめんね。ごめんなさい。」

手を握りしめたままキラキラと濁りのない目で見つめられて晴海は思わず目を泳がせた。



な、何て素直なの、この子。
…俺が脅迫してここに来るようにしたってこと、わかってんのかなあ…。



紫音の素直な謝罪に晴海の罪悪感が頭をもたげる。本当は紫音を屋上から連れ出して、克也と梨音を二人きりにするつもりだった。でも、自分の合図に大人しく従った紫音に何故か不安を抱かせたくなかった。
克也の様子からして梨音を無理やり組み敷こうとはしないはずだとわかっていても、万が一のことがあったとしたら。そう考えて、当初の予定を変更した。二人が見れる位置にいたなら、すぐに止めに入ることができる。

信用してくれと言ったのは自分だ。晴海は、紫音に嘘をつくような真似はしたくなかった。

「いや、うん…。…ん?」
「わ、せ、せんぱい?」

自分の手を握りしめる紫音の手を見て、晴海は急に眉間にしわを寄せた。紫音の手を取り、袖をめくる晴海に紫音が驚いて声を掛ける。だが、そんな声よりもめくった袖の下から現れたソレに晴海はますます怪訝な顔をした。


紫色に変色した、手形。


「ち、ちがうの!せんぱい、俺っ、俺ね、肌が弱くてちょっとしたことでもすぐにこんな痕ついちゃうの!」

慌てて手を引っ込めて隠そうとする紫音の手をそっと握る。

…これは間違いなく、あのトイレの前でのやり取りの時に自分が付けたものだ。確かにあの時は紫音と勝負をしてみたいと思っていたし、こんな性格だなんて知らなかったからわざと力いっぱい握りしめた。

悪いのは間違いなく自分なのに。

晴海が気にしない様にと、必死になっている紫音を見て晴海はよくわからない感情が胸に渦巻いた。
そっと、紫音の手に残る痣を撫でる。

「せ、せんぱい…?」
「…ごめんね、紫音ちゃん。痛かったよね。ごめんね。」

申し訳なさそうに痣を撫で、謝る晴海に紫音はかあ、と顔に熱が集まるのがわかった。
しゅんと俯く晴海をひょいと覗き込む。

「…せんぱい、ありがと。うれしい。あのね、ごめんなさいしたらもう仲直りなんだよ。俺とせんぱい、仲直りだね!」


―――――――どくん!


自分を覗き込んでふにゃりと笑いながら撫でる手をぎゅっと握りしめてきた紫音に、晴海は鼓動が一つ跳ね上がった気がした。

こ、の子…。

「…紫音ちゃ…」
「俺と先輩も、仲直りしたからお友達だね!」


お と も だ ち。


紫音の口から発せられた言葉に、晴海はぴきんと固まった。

「せんぱい?」
「…うん、いや、なんでもない。なんでもないよ。…うん、そうだね。…おともだちだね…」



なんだろう。この、言いようのない虚脱感…。


…なんだろ。せんぱいのごめんなさい、すごくすごく嬉しかった。


二者二様、お互い自分の気持ちを不思議に思いながらえへへと笑いあった。

[ 197/283 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
トップへ戻る