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「うわぁー!」
梨音と紫音がお弁当箱を開けると、晴海が覗き込んだ。
まん丸オニギリに海苔で顔がつけてある。おかずも、卵焼き、花形にくり抜いた人参とサツマイモ、ハンバーグにも星形にくり抜いたチーズが乗せられている。茹でたブロッコリーにマカロニ、バランスよくかつ彩りよく詰められたお弁当を見て晴海は感嘆の声を上げた。
「すっごいね!梨音ちゃんが作ったの?」
「は、はい。ぼく、お料理好きなんです」
おいしそ〜!すごいね〜!と梨音を褒める晴海に、紫音は内心とても得意げだった。すごいでしょ。りーちゃんはお料理得意なんだもん。梨音を褒められ、自慢したくてうずうずするけれどぐっと我慢する。
梨音は褒められて真っ赤になってぱくりと卵焼きを一口食べた。視線を感じてちらりと目線を上げると、克也が食い入るように梨音のお弁当を見ていた。
…どうしよう。せんぱい、お弁当じっと見てる。欲しいのかな?好きなおかずでもあったのかなあ?…あげたほうがいいのかなあ?
「その卵焼き、すごくおいしそう!なあ、克也!」
晴海が急に話を克也に振り、梨音はどきりと心臓が跳ねた。
どきどきしながら、克也を見つめる。
「…ああ、うまそうだ。」
「…!」
克也は晴海の問いかけに、自分を見つめる梨音から視線をそらさずにふと微笑んだ。
その微笑みを見て梨音は真っ赤になって俯き、おずおずと克也にお弁当を差し出す。
「た、食べます、か?」
梨音の思わぬ申し出に克也は一瞬目を見開いて固まる。だが、次の瞬間お弁当を差し出す手とは逆の卵焼きを挟んだ箸を持つ手を掴み、先ほど梨音が一口かじった卵焼きを箸ごとぱくりと一口で口に入れてしまった。
「あ…!」
「…ん、うまい」
梨音の方を見もせずにぶっきらぼうに言う。梨音は克也の離した手の先にある箸をじっと見つめた。
ぼ、ぼくの、おはし…。せんぱい、お口に…。
「あー、いいないいな。梨音ちゃん、克也だけぇ?」
固まったまま動かない梨音に晴海が声をかけ、梨音はびくりと大きく肩を跳ねさせた。
「あ、せ、せんぱいも、いりますか…?」
晴海に差し出そうとした手をぐっと押さえたのは克也だった。
急に手を押さえられ、梨音がきょとんとして克也を見る。
「…やめろ。お前が食う分がなくなる。ただでさえチビなんだから飯はしっかり食え」
相変わらず梨音を見ようともせずに憮然として言い放つ。
「あー、なにさ、克也!自分だけ食っといて!」
「うるせえ、てめえはそのパンがあるだろうが」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人を横目に、梨音は自分の箸を見つめる。
「…梨音、食べないのか?」
「…!う、ううん、食べる、よ…」
箸を見たまま一向に食事をしようとしない梨音に不思議そうに紫音が声をかけると梨音は決心したかのように箸を動かし、摘んだおかずを口に入れる。
…ど、しよ…。おむねが、くるしいよ…。どして…?
自分のかじったおかずをそのまま食べさせることなんて、紫音といくらでもしたことがある。
それなのに、それが克也だと言うだけで梨音は心臓がぎゅっと痛くなりどうしたらいいのかわからずただただ困惑して俯いたまま黙々と箸を進めた。
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