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お食事会

「しーちゃん、何があったの?」


放課後、寮につくなりやはり梨音が晴海との間に何があったのかを問いただしてきた。
紫音は紅茶オレの入ったマグを両手で包み込んで、こくりと一口飲んでから口を開いた。

「あのね、あのねりーちゃん。晴海先輩ね、謝ってくれたの。怖がらせて、ひどいことしてごめんねって。」
「え?…しーちゃんに、ごめんなさいしに来たの?」

紫音は紅茶オレをまた一口飲んでこくりと頷いた。

「それでね、晴海先輩、お友達になろうって言ってくれたの。もうしないからって。それで、先輩のお友達の滝内先輩もね、りーちゃんに謝りたいんだって。ごめんなさいしてりーちゃんとお友達になりたいんだって。」


『滝内先輩』



その名前に梨音はどきりと心臓が大きく跳ねた。

…あの人、だよね。
僕をトイレで待ち伏せしてた、赤い髪の…。

「…僕と?お友達に、なりたいの?」
「う、うん。そう言ってたよ。ほんとはりーちゃんに会いに来て謝りたかったけど、昨日のことがあったから俺がりーちゃんに会わせてくれないだろうからって晴海先輩が言伝に来たんだって」

紫音は話しながら内心緊張のあまり震えそうだった。本当は、謝罪などされていない。でも、お昼を一緒に食べるようにするにはまず梨音を怖がらせないようにして話を進めなければならない。

晴海に、自分の本当の姿がバレてしまったとは口が裂けても言ってはいけない。もしその事が梨音に知られてしまったら、梨音はきっと自分のためにその身を犠牲にしようとするだろう。それだけは、絶対に避けなければ。

同時に、不安で押しつぶされそうにもなる。

梨音を守るためにその姿を偽り、強い人間を演じている。なのに、それがバラされてしまわないように梨音を不良とご飯を食べるように差し向けなければならない。


…俺、間違ってないかな。結局、梨音を危ない目に遭わせることにならないかな。


昼間、話をした晴海を思い出す。
今日、自分を呼びだしたときに屋上には誰もいなかった。いつもなら授業中であろうが何であろうが必ず幾人かの不良がいるのに、晴海と自分以外に姿はなかった。

わざわざ鍵まで閉めて、誰も入れないようにしてから話を始めた。


『信じてよ。梨音ちゃんの嫌がることは絶対にしないよ』


晴海の言葉を思い出し、マグをギュッと握る。


ほんとに悪い人なら、仲間の前で俺のことをバラしてるよね。屋上に行ったとき、仲間もいるようにするよね。でも、晴海先輩は一人で話してくれたよね。
お父さんとお母さんも言ってた。人を疑っちゃいけませんって。



お約束、してくれたもん。



紫音は、晴海を信じようと決めた。


「りーちゃん、だめ?」

紫音は視線をマグから梨音に移し、首を傾げた。

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