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5

「あんね、紫音ちゃん。明日っからね、一緒にお昼ご飯食べてほしいんだ。」

紫音はぱちくりと涙に濡れた目を瞬かせた。一緒にお昼…?それだけでいいの…?

「もちろん、梨音ちゃんも一緒に。昨日紫音ちゃんが殴り飛ばした克也、いるでしょ?あいつがね、梨音ちゃんともっともっと仲良くなりたいんだって。だから、明日から梨音ちゃん連れてお昼に屋上にきてくんない?」

紫音はまた顔を青くした。

「り、梨音には何もしないでって…」

じわじわと涙を浮かべ、ひっくひっくとまたしゃくりあげはじめる紫音に晴海は慌てて違う違うと手を振る。紫音は涙をこぼしながらこてんと首を傾げた。晴海は思わず口を押える。一瞬、頭を撫でてやりたくなってしまったのだ。

何、この子!ほんと調子狂うよ、勘弁してくれ!

「あのね、紫音ちゃん。克也だって昨日の事は反省してるって言ってた。これは本当。だからね、俺としては克也のために梨音ちゃんと克也が少しでも話ができるようにしたいんだよね。」
「お話、したいの?滝内先輩、ごめんなさいしてりーちゃんとお友達になりたいの?」


ごめんなさいって!
お友達って!!


こてんと首を傾げながら口にした紫音の言葉に思わず噴き出しそうになった。

「うん、そう。お友達。昨日はごめんなさいって言って、仲良くしてってお願いしたいんだって。」

笑い出しそうになる顔を必死に繕いながら答える。お友達って、随分久しぶりに口にした気がする。この年で口にするにはなかなかハードな単語だな。

晴海は口にしながら首のあたりがむずがゆくなった。

「…だから、お昼?」
「そう。普通に会いに行ったって、紫音ちゃん昨日の事があるから俺たちに梨音ちゃんを近寄らせもしないでしょ?」

確かにその通りだ。今日、梨音に近づこうとすれば自分は絶対にそれを許さなかっただろう。梨音もう二度とを怖い目に合わせるわけにはいかないのだ。

「これは取引だよ。紫音ちゃんが俺たちとお昼を食べる代わりに、俺は絶対紫音ちゃんの事は誰にも言わない。お昼食べるだけなんだから別に悪い話じゃないと思うんだけど?それだけで秘密は守られるんだよ?…ま、紫音ちゃんに選択肢は一つしかないと思うけどね。」

確かに晴海の言うとおりだ。自分がそれを断れば、晴海に自分が本当はクールな人間などではないと暴露される。

「…お昼、食べるだけ、ですよね…」
「そだよ。信じてよ、梨音ちゃんの嫌がることは何もしないよ。」

今はね、と言う言葉はいわないでおく。昨日の夜の克也の様子から、いきなり梨音をどうこうしようと言うことはないはずだ。だが、克也が欲しているのは梨音そのもの。仲良くお昼を食べるだけでは満足するわけない。その後、いかにして梨音を落とすつもりでいるのだろうか。
いざとなれば、やっかいな守護神君は俺が弱みを握っている。紫音はそれに気づいているのだろうか、それとも…


「…わかり、ました。明日から、屋上に来ます。」
「うん、約束ね。もし約束破ったりしたら…」
「しません。絶対に」


間髪入れずに紫音が答える。その目は、梨音の為なら、という言葉が聞こえてきそうなほどまっすぐだった。そのまなざしに晴海はまた少しの苛立ちを覚えた。

「話はそれだけですか?」
「あ、うん。」

晴海が頷くと紫音は屋上の出口へと向かう。鍵を開けるため、晴海も出口へと紫音の後ろをついて行った。鍵を開けて扉を開けてやる。エスコートをされた紫音はちょっと驚いたように目を大きくした。背中を向けて去ろうとする紫音にあ、そうだ、と声を掛ける。紫音が歩みを止めて晴海の方へ振り返った。

「ねこちゃん、かわいいね。好きなんだ?」

なんとなく、口にした言葉。だが、それを聞いた紫音は目を見開いた後にこりと笑った。

「うん、好き。」

えへへ、と笑うその顔に、晴海は思わず口を開けた。

「先輩、昨日振り飛ばしちゃってごめんね。じゃあね、また、明日。」

ぺこり、と頭を下げてたんたんたん、と紫音が階段を降りて去っていく。紫音が去った後、晴海は占めた扉を背にずるずるとその場に座り込んだ。

「…っ、なに、あの子…」

確実に赤くあってしまったであろう自分の熱い頬にありえねえ、と愚痴をこぼして頭を抱え込んだ。

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