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3

今の時刻は午前0時15分。こんな時間にこんなところに出てくる奴なんて、ほとんどいないに等しい。晴海はこちらに向かってやってくる人の気配に自分も近くの草むらに隠れた。

晴海は、現れた人物に目を見開いた。紫音だ。

晴海はじっと息をひそめ、紫音の動向を探る。紫音は手に何かを持って、きょろきょろと辺りを見回し何かを探しているようだった。

「にゃあ…」

しばらくすると、向こうの方から小さな子猫が一匹現れた。猫なんていたのか。知らなかった。だが晴海は次の瞬間、子猫よりももっと驚愕するものを目にした。

「にゃんこちゃん、遅くなってごめんね。」

紫音が、柔らかく微笑みながら子猫に近づいたのだ。


…今、にゃんこちゃんって言った…!?


晴海は自分の耳と目を疑った。あの、紫音が。なにこいつ、紫音の皮をかぶった別人だろうか。う〜んう〜んと頭を抱え、もう一度紫音と子猫を盗み見る。
紫音は手に持った皿を子猫に差し出した。どうやらエサが入っているらしい。はぐはぐと食べ始めた子猫を目を細めて見ている。

「ごめんね、にゃんこちゃん。いつもこんな遅くなって。りーちゃんが寝た後じゃないと出られないんだあ。」

りーちゃんって誰…!?

晴海はますます混乱して目が回りそうだった。

「あのね、お母さんにお願いしてにゃんこちゃんをもらってくれる人を今探してもらってるんだよ。ほんとは俺の家で飼ってあげたいんだけど、りーちゃん、猫アレルギーだから無理なんだあ。ごめんね。」

エサを食べ終えた子猫が、にゃあ、と一声泣いて紫音の胸に飛び込んだ。

「新しいご主人様が見つかる少しの間だけ、俺がご飯持ってきてあげるからね。見つからない様に奥の方に隠れててね。」

子猫はごろごろと甘えた声を出し、紫音の頬に頭を摺り寄せた。

「えへへ、くすぐったい。」
「…っ!」

ふふ、と笑う紫音をみて、晴海は息を詰まらせた。

しばらく子猫と遊んだあと、紫音はゆっくりと立ち上がり中庭の暗闇に姿を消した。子猫も紫音がいなくなると、元来た方へ駆け出しあっという間に姿を消す。
晴海一人が、その場から動けずに呆然と座り込んでいた。


今のは何だ。さっきのは誰だ。

晴海は頭の中の情報を必死になって整理した。

紫音はそのクールで冷たい立ち振る舞いから梨音の守護神と呼ばれている。一部のチワワな生徒からは氷の君と呼ばれ密かに憧れられている。事実、自分に相対するときの紫音は口調も態度もとても一年とは思えないほどの威圧感だった。

だが、今の紫音はどうだ。

ふにゃりとした情けない笑顔に、あの口調。


「…いーもん見ちゃったあ♪」

晴海は整理し終えた後、にやりと口角を上げてくふくふと笑った。

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