ばれちゃった!?
克也と晴海は、いつものように溜り場である二見のバーに来ていた。だが、無言でぐたりとソファに座り、顎を上げて背もたれに頭を預けて天井を見上げたまま動かない二人にチームの皆もどう声を掛けていいのかわからずちらちらとお伺いを立てている。
「こら、二人とも!しけたツラしてぐうたらしてんだったら上の個室に行け!」
とうとう黙っていた二見が我慢ならん、とお盆で二人の頭をはたいた。
「いってえ!二見さんひでえ!」
「うるせえ!てめえらみてえな辛気臭い奴らがいちゃ商売あがったりだ!帰るか上に引っ込むかしろ!チームの仲間に心配かけんじゃねえ!仮にも総長と副だろうが!」
ごもっとも。
二見の正論に二人はすごすごと店から出て行った。
「総長たち、どうしたんすかね…?」
下っ端の一人が二見に心配そうに声を掛ける。二見はふむ、と顎に手をやった。
「克也のありゃあ草津の湯でもってやつだろうな。だが、晴海のは皆目見当もつかねえ。」
ま、そのうちなんとかなるだろ、とあっけらかんと言う二見にチームのメンバーはお互い顔を見合わせるしかなかった。
店を追い出された二人は、無言でぶらぶらと街を歩く。沈黙を破ったのは晴海だった。
「どしたの?梨音ちゃん無理やりヤッた?」
「…キスは、な」
「…そっか、そんな時間なかったか。わりいね、あんま弟君引き止められなくて」
晴海の謝罪に、克也はいや、と首を振った。
犯ろうと思えばいくらでもできた。個室に押し込んで鍵をかけて、とにかく突っ込んでしまえばいい。奪うだけ奪って、落とすのは後からでもできる。
だが、梨音の腕を掴んだ瞬間。克也は全身が熱くなった。確かに、梨音のことは何が何でも手に入れたかった。でも。
腕の中で震える梨音を抱きしめた時のそのか弱さに。その儚さに。
壊したくない。心からそう思ったのだ。
「…無理やり奪うのはやめた」
克也の言葉に晴海がじっと克也を見つめる。
「…これ以上、梨音を怯えさせたくない…」
晴海はこれ以上ないほど目を見開いた。あの、克也が。
克也はその容姿のためにいつも男女問わず言い寄られていたし、黙っていても寄ってきた。その為、仲間は大事にするものの自分に媚を売ってくるものに対してはとてもドライでヤるだけヤってひどく捨てるなど常だ。ひどく手荒に扱っても、克也がちょっと甘い言葉を吐くだけで誰でも簡単に克也に夢中になる。欲しいと思ったものはいつだって簡単に手に入ったのだ。
梨音だって例外ではないはずだ。傷つけて、うんと優しくしてやればころりと落ちると晴海も克也も考えていた。
それを、克也はしたくないという。
「…今回は、まじ、か…」
夜空を見上げて晴海がつぶやく。克也は何も言わなかった。
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