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休むことなく走り続け、寮にようやくたどり着いた紫音は震える手でカードキーを差し込む。焦りながらもなんとか部屋を開け、鍵をかけてチェーンを掛ける。
そこまで終わると、ずるずると玄関に縋り付いたままへたり込んでしまった。
「しー…、ちゃ…」
ぜえ、ぜえ、と後ろから梨音の息苦しそうな声が聞こえる。紫音は震える体を必死に動かして梨音に抱きついた。
「ひ…っく、う、うえ…!りーちゃ、…りーちゃあん…!」
怖かった。あんな怖い思いをしたのは久しぶりだ。やっぱり一緒に入るべきだった。洗面台の所で待ってれば、梨音にあんな怖い思いをさせずに済んだのに…!
紫音はがくがくとふるえ、嗚咽を漏らしながら梨音を抱きしめていた。
「…しーちゃん、大丈夫。大丈夫だよ。ね?」
梨音が、優しく紫音の背中を叩く。紫音は涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげて梨音を見た。
「しーちゃん、ありがとね。僕、大丈夫だから。ね、もう泣かないで。お願い。」
怖かっただろうに、自分を心配して優しく微笑む梨音にこくりと頷き、ごしごしと目をこする。
「だめだよ、そんなに擦ったらうさぎさんの目になっちゃうよ。あっちいこ。ね、ソファに座って待ってて。僕、タオル持ってくるからね」
紫音の手を引き、ソファに座らせてぱたぱたと梨音が洗面所へと向かう。
洗面所の扉を開けて中に入った梨音は、扉を背にずるずるとその場に座り込んでしまった。
梨音は、先ほどのトイレでの出来事を思い出していた。
「やだ!しーちゃ…!」
助けを求め逃げようとしたその時、梨音は思い切り抱きしめられて噛みつくような口づけをされた。梨音にとって初めてのキス。一瞬何が起こったのかわからなかった。だが次の瞬間、自分の口の中にぬるりとした熱い何かが入り込んでくるのに気付いて梨音はもがき暴れだす。
「んうぅ…!ん――――――!」
それが克也の舌だと気付くのに時間はかからなかった。梨音はぬるぬると口の中を暴れまわる舌を必死に避けようとするが、克也は執拗に梨音の舌を追って自分の舌を絡ませる。背中をぞくぞくとした感覚が這い上がり、息が上手くできなくて梨音はぽろぽろと涙を流した。
「ん…っ、ぷはっ!、や…、くる、っし…!んんっ」
息をしようと顔を背けるもすぐに顎を掴まれ無理やりその口を塞がれる。
離して、苦しい、やめて。
どんなにもがき暴れようとも、克也はがっちり抱き込んで拘束を緩めない。もとより非力な梨音がその腕の中から逃げられるはずもなく、梨音がとぎれとぎれに発する言葉は
全て克也の口内に消えて行った。
酸欠にくらくらと意識が飛びそうになってくたりとした梨音を克也は胸に閉じ込める。
「梨音。梨音…」
朦朧とする意識の中、自分の名を呼ぶその声がひどく優しげに聞こえた。
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