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「おっはよう!梨音ちゃ〜ん!」
次の日、二人が登校すると靴箱の所で晴海がへらへらと笑いながら声を掛けてきた。紫音が、さっと梨音を背に庇う。
「なにさ、弟君。挨拶ぐらいいいじゃん。」
にこにこと人当たりのよさそうな笑みに、梨音が後ろから顔を出した。
「お、おはよう、ございます。」
紫音のシャツを掴みながらおずおずと小さな声で挨拶をする。
何、この子。ウサギちゃんみたい。超かわいい。…克也にあげんの、もったいないなあ。
思わず頭を撫でたくなって一歩近づくと、紫音が梨音を隠して一歩下がり、晴海を睨みつける。晴海はその紫音の目に、ひどくいらだちを感じた。だが、ここで昨日のように威嚇すれば梨音を怯えさせてしまう。晴海は伸ばした手をポケットに突っこんで大きく息を吐き出した。
「…行こう、梨音」
「ちょ、ちょちょ、待って待って。お話まだ終わってないのよ。」
そんな晴海を無視して、紫音が梨音の肩を抱き晴海の横を通り過ぎようとするのを手を広げて制止する。
「あのね、今日のお昼にまた屋上来てほしいな〜?なんて」
「断る」
晴海の頼みを一蹴して、紫音は歩き始めた。
「ちょ、待てよ!てめえじゃねえよ、梨音ちゃんに言ってんだ!」
紫音の腕をつかみ、無理やり自分の方を向かせて晴海が大声を出す。紫音は掴まれた腕を難なく振り払い、晴海を冷たい目で睨みつけた。
「梨音の意志は俺の意志だ。梨音は俺なしで誰かの呼び出しに応じることはない。俺がさせない。つまりこの先もお前らの溜り場には行くことがないということだ。失礼する」
有無を言わせない物言いに晴海があっけにとられている隙に、紫音は梨音を連れてその場から去って行った。
「…っくそ!なんだってんだ!」
晴海は言いようのない苛立ちに靴箱をガン!と思い切り蹴り上げた。
「し、しーちゃん、しーちゃん…」
教室に向かう廊下で、梨音が不安げに紫音のシャツを引く。紫音はぴたりと歩みを止め、きょろきょろと周りに誰もいないのを確認してから梨音をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だよ、りーちゃん。」
梨音は、そう言って自分を抱きしめる紫音の体が震えているのに気付く。梨音も、紫音のシャツを握りしめて抱きしめ返した。
「さ、行こうか。遅刻しちゃうよ」
くしゃりと梨音の頭を撫でて、手を引いて教室に向かった。
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