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「えっと…、ど、どこに…?」
「うるせえ。はいか、イエスかしか聞かねえ。その二つのどっちかを答えろ。てめえにゃ拒否権も質問権もねえ」
冷たい目でじろりと睨まれ、梨音はびくりとすくみあがった。そしてじわじわとその大きな目に涙を浮かべる。
「う、うぇ…、ひっく…」
「ああっ!ばか克也!梨音ちゃん、大丈夫!ごめんね、違うんだよ…」
泣き出した梨音に慌てて晴海が駆け寄るが、紫音がばっと梨音を背中に庇った。
「…ちょっと、弟くん。梨音君と話さしてくれないかなあ?」
梨音を隠して睨みつける紫音に晴海が言うが、紫音は首を振り梨音を出そうとはしなかった。
「てめえ、誰に向かってそんな態度取ってるかわかってんのか…」
紫音の態度にイラついたのか、晴海が今までのへらへらした雰囲気から一転、声を低くして紫音を威嚇する。だが、それでも紫音は動かなかった。
「…梨音ちゃんの弟だからと思って優しくしてやってりゃ調子に乗りやがって…」
晴海が、紫音に向かって一歩踏み出す。その体からは先ほどまでの晴海からは想像できないほどのオーラが発せられていた。
その威圧感に、梨音は紫音の後ろでぶるぶると震えている。
「やめろ、晴海」
まさに一触即発、というその時に制止の声を掛けたのは克也だった。晴海はぴたりと動きを止め、克也を振り返る。
「…梨音が怯える。やめろ。」
克也の言葉に、晴海が臨戦態勢を解いた。ふ、と晴海の周りの空気が和らぐ。
「ごめんねえ、梨音ちゃん。怖がらせちゃったねえ。もうしないよ」
にこにこと紫音の後ろに梨音に話しかける晴海に、梨音がおずおずと顔を出した。
「今日の所は見逃してやる。だが覚えとけ、木村梨音。お前は俺のもんだ。」
克也が、じっと梨音を見つめる。その傲慢な物言いとは裏腹に、その目は優しい色を持っているように梨音は感じた。
そんな二人の視線を遮るように、紫音が梨音の肩を抱きくるりと向きを変えて屋上から立ち去ろうとする。
「弟君〜、君は今日の落とし前つけさせてもらうからね〜!…覚えてろよ…」
梨音を守るように屋上から立ち去る紫音の背中に、晴海がそう投げかけるも振り返ることなく紫音は梨音と共に立ち去った。
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