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7

野々宮がしゅるりとアキラを縛る紐を解く。

「はは、ひどい顔だな」

アキラは自由になった腕で涙でぐしゃぐしゃになった野々宮の顔を指さして笑った。

「お前こそ。なに、パンパンに腫れてどっかのパンのヒーローみたいだけど」

野々宮も、アキラの顔を指さして笑う。

「…会長選、頑張れよ。」
「そんなこと言っていいの?俺が会長になって薬師寺が落ちちゃってもいいの?」
「俺は別に太陽にどうしても勝ってほしいわけじゃないよ。ただ、どちらにも全力を尽くしてほしい。あとは太陽を信じるだけかな。あいつの本気をさ」

にっと笑うアキラに、野々宮も笑顔を返す。その顔はどこかつきものが落ちたようにさっぱりとしていた。


「…お前は薬師寺に返すよ」

そう言ってがらりと体育倉庫の扉を開ける。その扉の前に、太陽がいた。

「太陽…いつから」
「初めから、だろ?お前にも連絡がいったんだろ、崎田からさ」

太陽が無言でこくりと頷く。

「俺、負けませんから。」
「言ってろ。俺だって負けないよ?」

野々宮が一歩踏み出す。すれ違いざま、どちらともなく握りしめた拳をあげてがつんと腕を打ち合った。
野々宮は振り向くことなく歩き出す。それはさながら決闘場へ向かう誇り高き騎士のようだった。

「アキラ」

ふわりと柑橘系の香りがアキラを包み込む。太陽は壊れ物を扱うかのように優しくアキラを抱きしめた。

「盗み聞きとか悪趣味だな」

くすくす笑うアキラの髪にそっと口づける。

「…崎田がさ、来たんだ。告白された。今までずるいことしてごめんって。友達の振りして近づいてごめんって。俺も謝った。気付かなくてごめんって。俺にはアキラがいるから応えることはできないって、はっきり言ったよ。」

崎田は太陽の答えを聞いてにこりと微笑んだ。わかってる。これは自分の気持ちに踏ん切りをつけたかっただけ。
相手が唐津先輩だって聞いて納得できなかったけど、今ならわかる。
そう言って微笑んだ。

「それから、会長と組んでた事も聞いた。会長がここにアキラを連れ込むつもりなのも教えてくれた。…でも、崎田は言ったんだ。『きっと大丈夫』って。俺も、大丈夫だって思ってた。だから、扉前で待ってたんだ」
「なにが?俺みたいな平凡に手を出すはずないって?」

冗談ぽくわざと自虐的に言うアキラに、太陽はにこりと微笑んだ。

「アキラを信じてたから。アキラを好きになったなら、会長は大丈夫って。」
「なにそれ」
「だって、アキラだもん。アキラの本当を知った奴がアキラに悪いことするはずないよ」
「お前俺を何だと思ってんの」

体が震えた。
太陽は、どれだけ自分を信じてくれているのだろうか。

「…ありがとな、太陽」

アキラはそっと太陽の背中に腕を回した。

end

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