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「本気?」
「本気」
アキラの問いかけに、野々宮は無表情のまま返事をした。
「俺はね、何が何でも裏特権を手に入れたいんだ。その為には何だってやるさ。お前を傷つけることだっていとわない。俺はそういうやつなんだよ…!」
そう叫ぶなり、アキラの髪を掴み、口づけようとさらに近づく。
「嘘だな」
ほんの一瞬。唇が触れたその瞬間に、アキラがつぶやいた。その言葉に野々宮がぴたりと動きを止める。
「何言ってんの?」
「嘘だって言ったんだよ。お前が今言った本気がさ。」
「…なわけないじゃん。本気だよ?」
「…じゃあお前、なんで泣いてんの」
す、とアキラが縛られた腕の指で野々宮の頬を拭った。そこで野々宮は、初めて自分の頬が濡れているのに気付く。
「あれ?なんで?」
それをきっかけに、まるで蛇口が壊れたかのようにぼろぼろと野々宮の目から涙が溢れ出した。アキラは縛られた腕を伸ばし、泣き続ける野々宮の頭をそっと引き寄せる。
野々宮は一瞬びくりと体を硬直させた。アキラはそんな野々宮の頭を無言で撫でる。野々宮は体を震わせ、必死に声を押し殺して泣いていた。
「…ほんとに、初めはただお前を薬師寺から引き離すためだけに近づいたんだ…」
しばらく沈黙が続いた後、野々宮がぽつりと話し出した。
「俺はどうしても裏特権が欲しかった。その為だけに、お前に近づいたのに。…毎日、たわいない話をしながらお前を見ているうちに、崎田たちからの嫌味を黙って受けているのをみるうちに。なんでこいつはこんなに強がってるんだろうって。我慢せずに、誰かに泣きつけばいいのにって。そんな風に思うようになって…」
野々宮が、その腕をそっとアキラの背中に回す。
「お前が薬師寺と付き合うようになったって聞いたあの時。初めてお前が俺に弱みを見せてくれた。それがものすごく嬉しくて。その時に、初めて…
本気でお前が欲しいって思った…」
野々宮の告白は、まるで懺悔のようだった。震える腕でアキラを抱きしめ、その顔をアキラの肩口に埋めている。
「俺は、どうしても裏特権を手にいれなきゃいけないのに!そのためには薬師寺が邪魔でっ…!でも、その為にはお前を傷つけなきゃいけなくて!俺は…、俺は…っ!」
「…ありがとう、野々宮」
突然のアキラの言葉に、野々宮はそっと顔を上げた。
「は…、な、にが、ありがとう、なの…?今の話、聞いただろ…?…俺はそれでもお前を…」
「しないよ。野々宮は、そんなことしない。」
確信をもって微笑むアキラに、野々宮は言葉を失う。
「ありがとうは、全部かな。俺とダチになってくれたこと。俺の話を聞いてくれたこと。…本音を話してくれたこと。…ごめんな、気付いてやれなくて。」
自分といた時の野々宮がすべて偽りだとはアキラには思えなかった。例え初めはそうであったとしても、あの友達として過ごした日々は嘘じゃない。嘘だなんて思えない。今回の行動に出るために、どれだけ自分の心を傷つけただろう。
野々宮はその顔をくしゃりと歪め、またアキラにしがみついて声を出さずに泣いた。
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