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その場にいた皆が息をのむ。崎田は叩かれた頬を押さえ、目を見開いてアキラを見た。そして、ぎりぎりと唇を噛みしめる。
―――――ばしん!
皆が二人に注目する中、崎田がアキラを叩き返した。
「あなたに…!あなたみたいな人に…!」
崎田は二度、三度とアキラの頬を叩いていく。宮下が止めようと動き出すのをアキラは手を挙げて制する。皆その様子に身動きを取ることもできずただ崎田がアキラをじっとぶつのを見ていた。
ばしん!
幾度目かの平手打ちがアキラの頬を捕えた時、アキラの口端からつう、と血が流れた。それを見た崎田の取り巻きたちが辛そうに目をそらす。崎田ははあはあと息を荒げてアキラを睨んでいた。ぐい、とアキラが血を拭う。
「終わりか?」
アキラの言葉に、崎田はかっと顔を赤くして手を振り上げた。アキラは崎田から視線を逸らさない。そのまま振り落すかと思いきや、崎田は手を挙げてアキラを見つめたままぶるぶると震え出し。憎しみに歪めていたその顔をくしゃりと泣きそうに歪めた。
「…ずっと…!ずっと、見てきたのは僕なのに!どうして!どうして、あなたなの!」
ぼろぼろと涙を流し、振り上げたその手でアキラの胸ぐらをつかみがくがくと揺さぶった。アキラはそんな崎田の頭にそっと手を置く。
「…ごめんな」
ぽつりと口にしたアキラの謝罪に、崎田はぴたりと動きを止めてアキラを見つめた。
「お前が言うように、俺が生徒会長を目指すあいつのために何がしてやれるかなんてわからない。なんで今回立候補したのかもわからないし、何があいつのためになるのかも。
…でも、見届けてやろうと思う。泣き虫でよわっちくて、いつも俺に助けを求めてばかりだったあいつが初めて自分で何かを始めたんだ。なら俺があいつにしてやれること。それはただ一つ。どんな結果になろうともあいつを信じて、黙って最後まで見届けてやることだ。」
崎田はアキラの言葉に、涙に濡れた目を大きく見開いてじっとアキラの目を見つめた。
「…これじゃだめかな。俺の、本気。」
ふ、と微笑むアキラに、崎田は掴んでいた胸ぐらの手をそっと外す。
…薬師寺君が、好きだった。彼は僕の憧れで、理想の王子様で。彼の為なら何だってできる。会長になりたいと言うのなら、この身を売ってでも票を集めよう。彼が会長になれるために僕は全力で支えよう。薬師寺君の為なら。
俯いていた顔を上げて、アキラを見つめる。
この人は、違う。薬師寺君の全てを認め、受け止め、ともに歩もうとしているんだ。どちらかに寄りかかるのではなく。相手の力を信じて。
………かなわないや。
崎田は目を閉じて少し微笑み。それから、無言でアキラに頭を下げた。その場にいた皆が、崎田の姿に息をのむ。崎田はゆっくりと頭を上げ、アキラを正面から見据えると、くるりと背中を向けて歩き出した。慌てて、崎田の取り槇たちが後を追う。
歩きながら、崎田はその口元に微笑みを浮かべていた。涙を流しながら微笑むその姿は、どこか清々しいものだった。
崎田たちが去った後、宮下がアキラの傍による。
「無茶をする人ですね。万が一があればどうなさるおつもりだったんですか」
「崎田に限ってはそれはないと思ったんだ。本気で太陽が好きな奴なら、わかってくれるんじゃないかなって」
宮下が呆れたようにため息をつく。
「…あなたみたいなのをお人よしって言うんですよ。ひどいお顔です。保健室に行きましょう」
付き添う、という宮下を断って一人で保健室に向かう。保健室の扉を開けると、野々宮がいた。
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[mokuji]
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