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がたん!
あと少しで、というところで教室の扉が大きく開かれ、太陽が現れた。アキラはそこでやっと自分と野々宮の距離に気づき、慌てて席から立ち上がる。やばい、誤解されたんじゃないだろうか…!恐る恐る太陽を見ると、太陽は自分ではなく野々宮を睨みつけていた。
「…太陽」
「アキラ、大丈夫?」
太陽はアキラに近づき、優しく肩を抱く。…何が大丈夫なんだろうか?
「う、うん。別に何ともないけど…」
アキラの答えにほっとして微笑む。その顔を見て、アキラもほっとした。よかった。誤解されているわけじゃない。
「アキラ、さっき職員室に行ったら先生が言ってたよ。『放課後までに提出するように言ったレポートをまだ持ってきてないんだけど唐津を知らないか』って」
「うわ!やべえ!忘れてた!ちょっと出してくる、待ってて!」
「うん、待ってる。いってらっしゃい。」
アキラは慌ててカバンからレポートをだし、バタバタと教室を出て行った。
アキラがいなくなった教室で、先に口を開いたのは野々宮だった。
「番犬並みに鼻が利くね〜。あとちょっとだったのになあ」
くすくす笑う野々宮に、太陽はぐっと拳を握りしめる。
「…アキラに、手を出さないでください。」
太陽の言葉に野々宮がさらに笑みを深める。
「…あいつがお前のせいで一年から嫌がらせ受けてるの、知ってる?お前、気付いてないだろ。自分がもたらす影響が何を引き起こすか。」
…アキラが。
初めて知った事実に、太陽は愕然とする。
「大事な奴をそんな目にあわせておいて、その面下げて手を出すなだって?…お前、唐津の側にいる資格ないよ。」
挑発的に笑いながら言う野々宮に、太陽がぐっと唇を噛みしめ、拳をさらに強く握りしめる。
「…資格がないのは、あなたも同じです。」
太陽の言葉に野々宮がぴたりと動きを止めた。
「今聞いたことは、確かに俺のせいだ。でも、これから気を付ける。あなたのおかげでそれに気付けたから、俺は全力でアキラを守る。…でも、あなたは違う。」
「なにが違う、だって?」
野々宮はその顔から笑みを消し、無表情になって太陽を見つめ返した。
「あなたがなぜアキラに近づくか、知ってるんだ。俺だってバカじゃない。生徒会長のあなたがどういう人か、よく知ってるつもりです。」
「…それで?どうするつもりだ?」
野々宮は太陽を睨みつけたまま、氷のような冷たい声を出す。
「…アキラは、あなたをいい友人だと思ってる。俺からは何も言いません。ただ…」
そこまで言うと、太陽は強い決意を込めた眼差しで野々宮を見据えた。
「アキラを傷つけることだけは許さない。その時は、俺は全力であなたと戦います。」
野々宮は太陽の眼差しを正面から受け止めた。
「お待たせ、太陽!」
しばらく続く緊迫した状況の中、用事を済ませたアキラが戻ってきた。途端に二人とも空気を変える。
「じゃあ、お先に失礼します、生徒会長。いこ、アキラ。」
「あ、ああ。じゃあな、野々宮。」
二人が、ぱたんと教室の扉を閉めて出て行ったあと。誰もいなくなった教室で、野々宮は苦々しい顔で、がん!と机を蹴り上げた。
end
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