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5

アキラは放課後、教室で太陽を待ちながらぐたりと体を机に伏せていた。原因は今日一日にある。

崎田に会った休み時間から、実は小さな嫌がらせがちょこちょことあったのだ。移動教室から出るときに、自分の靴に砂が入れられていたり、廊下を歩くとゴミや小さな石をぶつけられたり。とどめに、昼休みのバケツ。

放課後までは自分の教室を出ることがなかったので、昼以降は何事もなかったが。それら全ては、一年の教室に近いところからやられていた。

「…ま、しゃーないわな。」
「なにが?」

独り言をつぶやいたつもりが、返事が返ってきたことに驚き顔を上げると野々宮がいた。

「どしたの、相談乗るよ?」

にこりと微笑み、前の席に腰掛けこちらを見る。

「…いや、別に。」
「薬師寺のことじゃないの?好きだーって、告白されたとか。」

な、なんで知ってるんだ!うっと言葉に詰まり、目を見開いて野々宮を見る。そんなアキラを見て野々宮は笑いをこらえた。

「くくっ、お前ってほんと正直なのな。引っかけただけのなのに。」
「…うるさい」
「…そっかあ、告白されたのかあ。…んで?付き合ってんの?」

顔を真っ赤にして、ぷいとそっぽを向く。ちらりと野々宮を見ると、優しく微笑みこちらを見ていた。…野々宮には、言ってもいいだろうか。受けている嫌がらせの事なんかじゃなく、誰かに聞いてもらいたかったことがあった。アキラは下を向きながら、口を開いた。

「い、一応、付き合って…るんだけど。よくわからなくて…」
「なにが?」

アキラは一度大きく深呼吸をした。

「俺、人を好きになったことがないんだ。だから、太陽に告白されて嬉しくて付き合おうって思ったんだけど、好きって気持ちがわかんなくて。…太陽はゆっくりでいいって言ってくれたんだけど…」

そこまで言ってアキラは泣きそうな顔で下を向く。

「…多分、太陽が望む気持ちは何なのかってこと。自分のこの気持ちがなんなのかってこと。ほんとは俺、もうわかってる。…でも、怖いんだ。それを認めてしまうのが怖い。もしかしたら、間違いなんじゃないかって。…認めてしまった後に、太陽から間違ってたって言われたらって…」


嫌がらせを受けても仕方ないと思うのは、自分が中途半端だから。自分の気持ちを認めることも太陽の気持ちを信じきることもできない。確固たる自信が欲しい。自分の気持ちにも、太陽の気持ちにも。それをまだ曖昧な位置で確かめたいと思う俺は、卑怯者だろうか。

「じゃあ、試してみる?」
「え?」

顔を上げると、自分を真剣な顔で見つめる野々宮がいた。野々宮は手を伸ばし、アキラの頬に触れる。

「薬師寺じゃなくて、別の誰かと。」

意味が分からないという顔をしているアキラの頬に手を置いたまま、ゆっくりと顔を近づける。

「唐津…」
「…の、野々宮…?」

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