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昼休み、太陽から中庭でお昼を食べようと言われていたので先に待ち合わせの中庭に続く校舎裏にいると、野々宮が現れた。
「よっ、唐津。」
「ああ、おはよう。どしたんだ?お前も中庭?」
にこにこと挨拶をしてくる野々宮に挨拶を返すと、野々宮はアキラの目の前で歩を止め、アキラの頭にぽんと手を乗せにこりと微笑んだ。
「…お前がここにいるのが見えたから。」
「あ、そうなの?」
何か話でもあったんだろうか。きょとんとするアキラの頭をよしよしと撫でる。
「お前、髪きれいだよなぁ。真っ黒で艶々してて、サラサラで。カラスの濡れ羽色、っての?」
撫でていた手で、すう、と髪をとく。
「…俺、この髪好きだな。」
そう言ってアキラの髪を手に取り、その髪に顔を近づけた。
「な、なにしてんの?」
「んー?いい匂いだなあと思って。」
…なんだ、匂いをかいだのか。
野々宮の仕草は、髪に口づけたように見えた。
「いや…匂いかがれるとか気持ち悪いんだけど」
アキラの言葉に、野々宮は目を見開いた後、ぶはっと吹き出した。
げらげらと腹を抱えて爆笑する野々宮に、アキラは首を傾げる。…そんな変なこと言っただろうか。
「おまっ…、マジで…!くくっ、あーおもしろ。あーあ、お前だけはほんとに。通じないよなあ。参った参った。」
笑いすぎてにじんだ涙を拭いながら言う野々宮に、怪訝な顔を向ける。
「…!唐津っ!」
「えっ?うわ!」
笑っていたと思った野々宮が突然大声をだし、アキラをがばりと抱きしめて押した。
がしゃん!
アキラのいた場所に、掃除で使うバケツが落ちてきた。驚いて落ちてきた方を見上げる。そこには誰もいなかった。だが。
「大丈夫か?唐津。危ないな、誰が落としたんだ。」
「…大丈夫、ありがとう。」
あそこは、確か一年の教室だ。
先ほどの休み時間の事を思い出し、アキラはふと目を伏せる。野々宮はアキラを抱きしめたまま、そっとその頬に手を置いた。
「…何かあったら言えよ。」
優しく微笑むその顔をじっと見つめる。…いい奴だなあ。
「うん、ありがとな。お前のおかげで助かったよ。いい友達持ったな」
「…お前だからだよ」
「え?」
じっと見つめていると、野々宮の顔が段々と近づく。
「の、野々宮?もう大丈夫だから、離してくれないか」
「アキラ!」
ぴたりと野々宮の動きが止まる。後ろから聞こえた声にほっとして、アキラは野々宮の腕から離れた。
「太陽。」
「…どしたの、なにか、あった…?」
困ったように眉を下げ、アキラに近づきその腕をつかむ。
「何でもないよ。上から物が落ちてきて、気付いた野々宮のおかげで助かったんだ」
太陽は怪訝な顔のまま野々宮をじっと見つめている。一方の野々宮は余裕の笑みを見せて太陽とアキラに近づいた。
「じゃ、またな。唐津」
「あ、ああ。」
ぽん、とアキラの頭を軽くたたき、すれ違いざまに、太陽に挑発的な笑みを向けて野々宮はその場を去った。
「太陽、行こうか…って、おい!」
太陽はアキラをそのまま抱き寄せ、自分の胸にアキラの顔を埋めさせた。
「アキラ、好きだよ。」
「…うん、わかってる。」
何だか切羽詰まったようにつぶやく太陽に、アキラはそう返してその背中をぽんぽんと叩いてやった。
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